第47話 王都

 そしてやっぱりそんな話の流れでは足掻くだけ無駄で、俺たちは翌日には王都を目指し再び馬上の人となった。


 ルカ爺さんも行くって言うからてっきり馬車だと思ったら、先頭を切って自分で馬を走らせている。意外とヤンチャでした。


「馬にも乗れないようなら貴族を名乗る資格はない。その時は隠居する」


 だそうだ。


 前回は孫のメリルちゃんが一緒だったんで馬車にしたんだと。


「よう、青年。あの時は世話になった」


 出発前に声を掛けられたのは親衛隊長のアルスさんとジータさんだ。

 爺さんが動くので当然のように護衛が三人、一行に加わった。

 最初は10人以上いたのだが、伯爵は一騎当千の強者だし、俺たちも戦える冒険者という事もありスピードを優先して人数を絞ったそうだ。


「あっ、隊長さん。お久しぶりです。ジータさん、怪我は大丈夫でしたか?」


「ああ、君のお陰でこの通り」


 腕をグルグルと回して見せる。


「本当に感謝してるよ。ありがとう」

「こんな形でまた会えるとは思わなかったが、礼を言えてなかったかったから良かった。王都に着いたら飯でも奢らせてくれ」


 アルスさん達には詳しい事情は伝えられていない。

 しかし、侯爵と伯爵と共に王都に上ろうというのだから、タダ者ではないとは感じているようだ。

 それでもこうして気軽に話しかけてくれるのは有り難い。


「そんなの気にしないでいいですよ。でも王都の食事は気になりますからぜひお願いします」


 そんな一行の中でテンション爆上げなのが一人。いや、一頭。


『ちょ、ちょ、あの牡、めちゃカッコいいんですけどー』


 あの牡とは爺さんの馬の事らしい。

 確か名前はイシュトリア。

 名前が既になんかカッコイイ。

 その馬体は美しい栗毛で、バランスよく見事に引き締まっている。

 いい馬なのは間違いないだろう。血統とか凄そう。


『ぜひお近づきになりたいわ。宿の馬房は隣にしてちょうだい』

「王都に着くまでは大人しくしていて欲しいんだが」

『分かってるわよ。そこはちゃんとするから。ねっ、だからお願い』

「はいはい、努力させて頂きます」

『やったー!』


 何故かノイアーが渋い顔してる気がする。




 三日目の昼前には王都が見えた。


 峠を抜けた小高い丘の上から見える王都は圧倒的だった。

 ローバーも立派な街だったが規模がまるで違う。

 そんな景観の中でさえ一際目立つ建物が王城のようだ。


(どんだけデカいんだよ)


 街を取り囲む壁の外に広がる広大な農地を抜け、街の入り口に辿り着いた。

 当然入口の検問は貴族特権で待ち無しです。

 並んでる商人の皆さんすいません。


 街中はローバーと同じで馬は並足以上は禁止です。目抜き通りを進みながら、ふと脇道に目をやると道の両脇のテントの間を人がうじゃうじゃ動いていた。きっと市場か何かなのだろう。面白そうだから時間があったら寄ってみたい。


 街中を城を目指してしばらく進むと景色が変わる。

 雑多に立ち並んでいた建物が疎らになり、美しく整えられた緑の奥に瀟洒な建物が建つ一角に辿り着いた。

 貴族様の居住エリアなのだろう。

 その中の一軒の門を潜る。ローバーの館ほどではないが立派なお屋敷だ。

 衛兵が敬礼で見送る中、馬車寄せまで馬を進めると執事が深々と頭を垂れ出迎えてくれた。


「無事のご到着、何よりでございます」

「うむ、また世話になる。まずは客人の案内を頼む、マルロー」

「はい、畏まりました。では、ジン様、マット様こちらへどうぞ」


(セバスチャンじゃないのか)

 くだらない事を考えながらマルローさんの後を付いていく。


 ここに泊るのは俺とマットだけ。

 伯爵は元々王都の人だから自分の家があるし、アルスさん達は別棟の官舎があるそうだ。


「こちらの部屋をお使いください。只今、お茶をお持ちいたしますので」


 そう言って部屋を出ていくマルローさんを見送ってから改めて案内された部屋を見回す。


 白銀亭の部屋も立派だったがこの部屋はそれに輪をかけて立派だ。


「スゲー部屋だな。俺までこんな部屋に泊っちまっていいのかよ」

王都こんなとこまで引っ張ってこられてるんだからこれくらいいいんじゃない」

「おう、それもそうだな。有難く使わせてもらおう」


 早速、旅装を解いて剣を外し、用意されていた湯桶で顔を洗って寛ぐマットにリュックから取り出したスポーツドリンクを放り投げる。


「おう、これこれ。甘いような酸っぱいような不思議な味だけど、体に染みこむみたいに美味いんだよな」


 すっかり毒されていた。

 

『トントントン』

「お茶をお持ちしました。失礼します」


 入ってきたメイドさん(?)がお茶を淹れて部屋を出るまで俺は動けなかった。



 

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