第25話 収納魔法

「うわー、面倒くさそう。侯爵様ってどんな人?」


「領主のアルベルト・サルバトーリ侯爵様は幼少の頃より優れた武技と魔法の才能を認められ、侯爵位を継承した3年前からは王宮近衛団長として王都におりますのでローバーに戻られることは殆どありません。将来は軍務卿に就かれるであろうと云われる国の重鎮です」


「王都か〜。行ってみたいとは思うけど、まだ早いよな。もう少しこの街で静かに過ごしたいんだけどなー」


「ジン様がまずお会いになるとすれば前侯爵のルカ様になると思います。アルベルト様は殆ど王都におられるので侯爵領のまつりごとは先代のルカ様が取り仕切っておられますから」


「ルカ様?あーあの爺さんか。そりゃ俺に監視が付くわけだ。確か王都に行くって言ってたけど帰って来たの?」


「いえ、まだお戻りにはなられていません。全てお話させて頂くと、私がバラン様から受けた指示はルカ様が戻られるまでジン様をこの街に引き止めるというものです」


「そんな事でいいなら最初に言ってくれればいいのに。こんないい宿に泊めて貰って恐縮して損した感じだよ。でもこれでスッキリしたかな。バランさんの所には明日一緒に行こう。アレックスだけじゃ伝わらない事もあるだろうからね」


「ありがとうございます。宜しくお願いいたします」


「でも良かったよ。最悪は街の偉い人に危険人物として目を付けられたと思ったからさ」


「とんでもない。バラン様がジン様を悪く思っているなど全くありません。私が付けられたのも確かに監視の目的はありましたが、ジン様の助けになると思ったのも事実ですから」


「なら、尚更きちんと話をした方が良さそうだね。イマイチやっていい事と拙い事の区別が分からないから相談させてもらえると有難いな」


「勿論です。ですが、ペットボトルこれも含めてジン様の力が規格外すぎて参考にはならないかもしれませんが」


 手に持ったペットボトルを持ち上げてアレックスは言った。


「ジン様は収納魔法もお使いになられるのですか?」


「転移魔法は他にも使う人がいるって話だったけど、収納魔法はどうなの?」


「魔法では収納が使える魔法士はそこそこいます。でもこちらは国への登録は義務付けられていますが魔法士団ではなく大手の商会のお抱えになっている人が多いですね。収納量が小さければ冒険者にも稀にいますよ。ローデリア商会にも二人ほど使い手がいますし」


 能力者の名簿ができていて緊急時には優先して徴用される感じだな。


「収納魔法みたいな鞄なんてあったりする?」


「城の宝物殿にあると話には聞いたことがありますが市中に出回っているとは聞いたことがありません。当然国宝ですね」


「魔法で収納できるなら鞄すら持ち歩く意味ないもんね。そりゃ誰も作らないよな。なら少しだけ使えるって事にしとこう。」


「…事にしとこうという事は鞄をお持ちなんですね」


 アレックスは眉を顰めるしかなかった。


「似たような物をね。だから収納魔法を少し使えるって感じで協力お願い」


「国宝レベルの話にしては扱いが雑過ぎる気が…」


「いいの、いいの。何とかなるでしょ。未登録者モグリはいないの?」


「普通ならばどこの商会でも優遇される力ですから隠す人はあまりいませんが、訳ありで裏の世界に居る人は収納魔法に限らず一定数いますね」


 力を堂々と使うには国の紐付きになるしかなさそうなのが面倒だな。バランさんに相談してみるかな。


「商会の人達はどれくらい収納できるの?」


「一般的には容量なら荷馬車一台分、重さなら200キロから300キロ程度と言われてますね。魔術士団には荷馬車三台分とか入れられる人もいるみたいですけど。ジン様の鞄はどれくらいですか?」


「大きいのも重いのも入れたことがないから分かんないんだよね。武器とか服とか食べ物しか入れたことがないからなぁ。機会があったら早いうちに試してみるよ」


 元ネタと同じなら容量無制限のうえ時間停止機能付きのポンコツ仕様の可能性が高い事はやっぱり秘密だな。コンビニアイテムが勝手に補充される事も。


「ありがとう、参考になったよ。それよりそろそろ飯だ。それとまた"様"に戻ってるからジンでお願いね」


 スポーツドリンクを飲み干して食堂に向かう二人だった。




 





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