第20話 想定外

 方針が決まってからは早かった。何しろ日暮れまでに集落を制圧しなきゃならないんだから。


 ちょこちょこ出てくる小鬼ゴブリンを切り捨てながら集落に100メートルまで近づいた所で、俺たちは攻撃隊から切り離された。


「ここを動くなよ。余計な事をしても助けてはやれないからな。とにかくじっと息を潜めて隠れてろ」


 そう言い残してマットも攻撃隊に続き集落へと進んで行く。


 仕方ない、遠隔視リモートビューングでライブ中継でも鑑賞しましょうか。アリーナで見たかったんだけどな。




 森が切れる手前で全員が集まって斥候からの情報と併せて行動の最終確認を行っていた。遠隔視じゃ声まで聞こえないんだよね。残念。


 聞いていた作戦の先鋒は剣の舞。マット達ソロと一緒に切り込んで中央の大きな小屋迄の道を作る。その道を月影と赤き地平が魔法士を護りながら出来るだけ小屋に近づき初撃の魔法でふっとばしてまず頭を潰すそうだ。


 ゴリゴリの力押しだな。まあ、相手が作戦行動なんかできない奴らなんだからこうするしかないよな。でも『大きな小屋』って何か変。


 頭を潰してしまえば数が多くても所詮小鬼。手間はかかるが敵じゃないだろう。



 おっ、行くぞ。剣の舞が集落に突っ込んだのを合図に残りも走り出す。目標の小屋までは100メートル以上ある。


 おお、おお、凄いな。わが軍は圧倒的ではないか。途中の小鬼達は抵抗もできずに切り倒されていく。小屋まで20メートルを切ったところで三人の魔法士が手をかざすと三つの魔法陣が現れ、白い光の塊が小屋に向かって飛んでいく。


『ドッカーン!!!』


 小屋は爆発と共に炎上した。ここまで音と振動が。魔法怖っ。


 攻撃成功を確信し、魔法士達が周りから押し寄せる小鬼に注意を移した時だった。煙と炎を貫き一条の光が月影の魔法士カーシャの右肩を貫いた。


 燃え上がる小屋の中から悠然と現れたのは人と変わらぬ体格の剣を持った三匹と首にジャラジャラとした呪い紐を掛けた二匹。最後に二メーターを優に超える逞しい体格の一匹。角もデカい。これで小鬼って無理がありすぎだろ。立派な大鬼だよ。


 どう見てもこいつが親玉だろう。しかし、あの魔法で無傷なのか?どんな造りしてんだよ。


 ラントが何か叫ぶ中、剣を持った三匹がマット達に斬りかかる。その剣を受けた隙に背後から小鬼がワラワラと襲い掛かっている。


 ラントが親玉に斬りかかるがバカでかい剣で吹き飛ばされた。


 魔法攻撃もお互いの魔法障壁で邪魔され効果が無い。


 あっ、剣の舞のリードも吹っ飛ばされた。


 これダメな流れだ。ヤバイやつだな。


「アレックス、ここ頼める?」


「今、動くのは拙いですよ。さすがにあの数の小鬼の相手は無理です」


「今動かないと全滅しちゃうからさ。じゃ、頼んだよ」『移動』


「えっ!?」




「ホブゴブリンだと!しかも6匹も!」


 ラントの口から驚きの声が零れる。


 これだけの規模の巣ならそれを束ねる呪術師の存在までは想定していたが、まさか上位種のホブゴブリンが6匹もいるとは思わなかった。しかもあの大きさは将軍ジェネラルだろう。完全な想定外だ。


 小鬼ゴブリンであれば一人で相手が20匹でも戦える。だがホブゴブリンでは無理だ。奴らは大きさだけじゃなく力も強く、頭も人並みに賢い。棍棒を振り回すだけの小鬼とは別物だ。


 呪術師シャーマンの魔法攻撃はシェリルとコンラートが防いでくれている。戦士ウォリアーならベルント達でも対応できるだろう。なら俺は将軍ジェネラルを狙う。ジェネラルコイツを倒せば何とかなる。


 戦士ウォリアーが飛び出し、空いた空間に一気に走り込んで斬りつける。


 気付いた将軍ジェネラルも斬撃を避け、手に持った大剣をこちらに叩きつける。


 辛うじて剣で受けたが、その膂力は凄まじく吹き飛ばされ地面に転がった。


 何とか起き上がり、群がる小鬼を斬り捨てるが左手が動かせない。


 くっ、折れたか。こりゃあ厳しくなっちまったな。




呪術師シャーマンが2匹いる!」


 シェリルの驚きの声にコンラートが視線を戻す。


 最初の魔法攻撃はシェリルが魔法障壁を展開して防いでくれたがカーシャがやられた。シェリルも直撃は防いだが魔法攻撃の威力が大きくダメージを受けたようだ。


 小鬼の呪術師とホブゴブリンの呪術師とでは魔法の威力が全く違う。それが2匹か。こちらからも攻撃を仕掛けるがやはり障壁に遮られ攻撃が通らない。


 初撃を防いだシェリルの魔力がヤバそうだ。流れ弾を警戒して小鬼が来ないのがせめてもの救いだが呪術師を倒せなければ先はない。これは無理かもしれない。



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