第7話 宿

「ジン様を白銀亭にご案内いたしました。本日はもう外出はしないとのことでしたので取り急ぎご報告に上がりました」


「うむ、ご苦労だった。必要な物は何かあるか?」


「ジン様から要望された物は特にございません。白銀亭にはバラン様の大切なお客様なので、接客は慎重にするようお願いしました」


「そうか。では、お前も今日はもう休め。明日からは彼に付き添い補佐をしてやってくれ」


「ありがとうございます。その前に一つ質問させて頂いても宜しいでしょうか」


「なんだ?」


「ジン様は一体どのようなお方なのでしょうか」


「私にも分からんのだよ。ハッキリしているのはルカ様があの指輪を託して、彼を私の下に送ったと言う事だ。あの指輪はルカ様が書簡の封蠟に使っておられる物だ。普通の書簡に封蠟などしない。使うのは重要な物にだけだ。しかもあの指輪の紋章は侯爵家を意味する。つまり侯爵家に直接関係する最重要書類にのみ用いられるものだ。本来ならばルカ様が手放されるはずなどない重要な指輪なのだよ」


「それ程の物をなぜあの青年に」


「指輪を私に届けたかった訳ではあるまいな。ならばルカ様が届けたかったのはあの青年そのものだ。その価値はあの指輪を預けるほどに重要な事だとも。ルカ様は隠密行動で王都に向かわれたはずだ。戻られるのは早くとも二週間はかかるだろう。ルカ様が戻られるまであの青年を出来るだけ穏便にこの街に引き止める事。それが私に託された仕事であろう。難しい仕事になるが頼めるかアレックス」


「はい、身命に替えましても」


「彼をこの街に引き止めるためであれば金はいくら費やしても構わん。ルカ様が戻られるまで出来るだけ気分よくこの街に留まってもらうのだ」


「ハッ」


 アレックスは一礼して部屋を出て行った。


 バランはソファーから立ち上がると執務机の引き出しから指輪を取り出し、それを暫く無言でジッと眺めていた。




「ヒャッハー!こりゃ気分は王様だな」


 案内された豪華な部屋で、天蓋付きの大きなベッドに飛び込んだ俺は旅気分を満喫してた。


 こんなベッドがあるならとっとと街に出ればよかった。てか、あの小屋に置いとけよポンコツ。麻袋はないだろ!麻袋は!


 でも、これは待遇が良すぎるだろ。指輪一つ届けただけだぞ。そんなに大切な物だったのか?そんな物を初見の俺に渡したのか?爺さんボケちゃったのか?まあ、あのthe金持ちジェントルメンには宿代なんて大したことなさそうだけど。


 ちょっとだけ掠って、大きく外れてた。


 イケメンアレックスは明日もまた来るって言ってたからそれまではノンビリしよ。

初日から働き過ぎだな。この世界を満喫せねば。


 明日の事は明日起きてから考えればいいんだ。大学にもバイトにも遅刻する心配なんかもうない。詰まった予定を消化する為に、携帯のアラームに急かされる生活とはサヨナラしたんだ。


 風呂もあるらしいから飯の前に行っとくかな。服は異次元ポケットに戻せば謎機能で綺麗になるけどそろそろ体臭が・・・。男だって身だしなみは整えなきゃな。


 夕飯も楽しみだ。コンビニ飯は確かに神だが、そこは『御節もいいけどカレーもね』だ。やっぱりオーク肉とか魔物の肉が出てくるのかな。早く食事の時間にならないかなぁ。


 そこにいたのは、給食の時間を心待ちにする四時間目の小学生だった。情けない。

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