第4話 助太刀してみた

 道端に落ちていた枝を拾ってブンブンと意味もなく振り回し、鼻歌を歌いながら道を進む。小学生か。出だしはともかく天気がいいから楽しい散歩だ。


 三時間ほど歩き続けた。途中に何本か脇道もあったが道幅が太い方を選んで進んだ。今は多少起伏のある森に挟まれたちょっとした峠のような場所を進んでいる。


「ん?」


 前方の路肩に馬車が横転していた。周りに血を流して倒れている人も見える。


 慌てて駆け寄り声を掛けると男から弱々しい声で応えがあった。


「おい、どうした。大丈夫か」


「と、盗賊が・・・、旦那様が・・・」


「分かった、もう喋るな」


 切り付けられたのかかなりの出血だ。気休めかもしれないが回復ヒーリングの力で傷口を塞ぎ出血を止める。男は気を失っている。


 辺りの様子を窺うと左手の森の中から微かに剣戟の音がする。音のする方に近づく途中で盗賊らしきオッサン二人と護衛らしいアンチャンが相討ちだったのか三人とも事切れて草の中に倒れていた。


 進路の大きな岩を回り込むと急に音が大きくなった。大岩を背に爺さんが小さな娘を抱きかかえしゃがみこんでいる。その前で護衛らしき男三人が七人の盗賊らしき男達と剣を交えている。護衛達も腕は立ちそうだが数で押し込まれようとしていた。


 いきなり殺しちゃうのはやっぱり拙いんだろうな。首の骨ポキポキ折っちゃえば済むから楽なんだけど。


 そんな事を考えながら俺は注意をこちらに逸らすために、まず手前の男の足を念動力でへし折る。


「ぎゃ」


 いきなりの痛みに何が起こったか分からず、しゃがみこむ盗賊の頭を蹴り飛ばす。


「てめぇ!」


 それに気づいて近づきながら斬りかかろうとする盗賊の腹に圧縮した空気の塊を叩きこむ。


「グハッ」


 空気の塊に吹っ飛ばされる盗賊の奥で手傷を負った護衛にとどめの一撃を振り下ろそうとする盗賊に向けて意識を集中する。


発火イグニッション!』


「ぎゃあーー!」


 盗賊は全身から炎を上げながら草の上を転げまわる。


 燃える仲間の姿に驚き動きの止まった盗賊達に、動ける護衛二人が隙を逃さず切りかかり一気にカタを付けた。


 辺りを窺い息のある盗賊にとどめを刺すと護衛の一人が話しかけてきた。


 あ〜あ、せっかく手間かけて殺さないようにしたのに。


「手助け忝い。おかげで命拾いした」


「いや、偶々通りかかっただけですから。間に合って良かった。それよりその人の怪我見させて下さい」


 振り向いて蹲る男を見る。


「ジータ、斬られたのか」


「すみません隊長。しくじりました」


 出血のある右肩を抑え苦しそうに返事をする。


 近づいて確認すると鎖骨が折れているが、幸いにも切創は深くないし、骨折部分のズレも少ない。


「すいません、ちょっと痛みますよ。我慢してください」


 折れた鎖骨をもとの位置に戻す。力業だからこれは痛い。


「ぐっ」


 ジータはくぐもった呻きを一声漏らしただけで耐えた。額は脂汗でびっしょりだけど。


 骨折部分に手を当て回復の力を流す。骨がくっついたのを確認してから切創にも同じように力を流していく。


 回復ヒーリングは体の新陳代謝を加速させる力だ。急激な体力の消耗を伴うが外傷はあっという間に治る。ちゃんとテスト済です。指先のちっちゃな切り傷治しただけだけど。自分で斬るのは勇気がいるんだぞ。


 ジータの破れた服の隙間から覗く傷もみるみる塞がっていく。急激な代謝により発生した熱を体外に放出しようと、全身から噴き出した汗が湯気となり体温を奪っていく。


「この力は一体・・・」


 隊長さんが絶句している。


「誰か水は持っていませんか?できればこの人に飲ませて欲しいんですけど」


「これを」


 爺さんや女の子と一緒に横に立って治療の様子を見ていたもう一人の護衛の男が、腰に下げた水筒をジータの口に傾けた。それを二口、三口飲み下すと少しは落ち着いた様だ。


「ジータ、大丈夫なのか?」


「さっきまでの痛みはありません。手も動かせる」


 急激な体力の消耗に半ば朦朧となった意識で弱々しくジータが隊長の問いに答える。その手は握ったり開いたりを繰り返す。


「取り敢えず水分を摂りながら少し休めば動けるようになる筈です。骨は接いてると思いますけど、暫くは重い物を持ったり過激な運動とかはしない方がいいですよ」




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