超能力でお願いします

銀ビー

第1話 ある日、突然

 悠木仁が目覚めたとき、そこは最近流行りの全てが白い場所だった。


 なんだこりゃ?体の感覚はなく、立っているのか寝ているのか、上を向いてるのか下を向いてるのか、全く分からない。


「悠木さん、聞こえていますか?」


 突然、頭の中に響くような女性の声。返事をしようにも口の感覚がないから声が出せない。


「考えるだけで大丈夫ですよ。聞こえてるんですね?良かった」


「何が良かったのか分からないけど、これどんな状況なの?」


「貴方はアルバイトの帰り道で死んでしまったんです。・・・ワタシノマチガイデ」


「ん、後半が聞こえにくかった。もう一度頼む」


 です」


「ハァ?意味が分かりませんが」


「あの瞬間に死ぬのは貴方とすれ違ったおじさんのはずだったんです。でも何故か貴方が倒れそのまま・・・。ちょっと手元が狂っちゃったのかな〜なんて。テヘッ♡」


「テヘッ♡で済むか!何してくれとんじゃいワレ!ボケ!カス!ブス!」


「ブスって何ですか!ブスって!あんまりです」


「人の人生を間違えて終わらせるような奴に容赦はしない」


「だからそれはこうして謝ってるじゃないですか。ちゃんとお詫びの人生も用意してまで」


「ん?お詫びの人生って何?」


「死んだら魂は記憶を消され同じ世界の輪廻の輪に加わるところを、無理して輪から引っ張り出して記憶を持ったまま他の世界に移れるようにしたんですよ。ねっ、私って凄いでしょ」


「うん、凄いね・・・なんて言う訳あるか!」


「ウッ、ダメか」


「ダメに決まってるだろ、そんなもん。大体、他の世界ってどんなとこだよ」


「男の子ならみんな大好き、剣と魔法のファンタジーワールドですよ」


「ネットは?スマホは?コンビニは?」


「勿論ありません」


「勿論ありませんじゃないでしょ!そんなとこでどうやって生きてくんだよ」


「そのためにちゃんと特別な力を授けますよ。何がいいですか?最強の剣聖?偉大な賢者?伝説の魔導士なんて言うのもありますよ」


「・・・超能力」


「えっ?」


「能力を選べるなら超能力を一式くれ」


「それは魔法が使いたいということですか?」


「違う。長ったらしい呪文や、ややこしい魔法陣や、魔素や、魔力なんか必要のない超能力だ。考えるだけで物が動かせたり、瞬間移動したり、攻撃したり、防いだり、心が読めたりする超能力だ。魔法ではない」


「はあ・・・。分かりました。私も初めての事なので、どこまで希望に添えるか分かりませんが努力させていただきます。それで何とか今回の件を水に流して頂きたいのですが」


「戻れないなら納得するしかないだろ。あ、あと全言語理解と前の世界の預金残高程度の価値の現金を頼む。言葉が通じなくて路頭に迷って死んじまったり、金が無くて犯罪者になるのはあんたも困るだろ?そうだ、異次元収納も頼む。青い狸猫のポケットみたいなやつ」


「それくらいは問題ありません。じゃあ異世界転送の儀を始めますね。ああ、気が向いたら教会に寄ってください。少しはフォローできますから。では、いってらっしゃ〜い」



 そして地の底に引きずり込まれるような感覚と共に俺は再び意識を失った。








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