第7話 走者 【RUNNER】

陸上部に入って約一年が経った。

リンナちゃんは昨年の大会では準優勝だった。

ボクもリンナちゃんに追い付かないと、そう思った。





「ミチちゃん!誕生日おめでとう!」

「ありがとうリンナちゃん!」

「そこでミチちゃんにプレゼント!」


貰ったものはスポーツシューズだった。

ただのシューズではない。それは1万以上するとても高いものだった。


「えっ!?これボクが欲しがってたやつ!こんなに高いものくれていいの!?」

「うん!ミチちゃんにはもっと頑張ってほしいからね!」

「私…リンナちゃんの誕生日の時は数千円の人形だったのに…次の誕生日では絶対にお返しするからっ!」

「いいよいいよっ!ミチちゃんが来年の大会で優勝してくれれば私はそれで十分だからね!」



嬉しかった。

ボクを、ボクのことをちゃんと見てくれていたのがとても…

一人称がワタシ、ではなくボク、であることでボクは色々な人を寄せ付けないようなオーラを漂わせていた。さらにいじめられていたボクに話しかけている人なんて誰もいなかった。


でもリンナちゃんが初めて話してくれてそれからボクは変われた。


でも幸せは長くは続かなかった。





「じゃあボクはスポドリ買ってくるから待っててね。」

「おっけ〜!お願いね〜。」




「え〜っと、スポドリは〜これかっ。」


バコーンッッッ!!!


突然響いた衝撃音。

トラックが突っ込んできた。



「リンナちゃん!?」


リンナちゃんが待っていたところにはいなかった。

そしてそこの地面にはトラックのタイヤが擦れた跡が残っていた。


「リンナちゃん!」


リンナちゃんはトラックのタイヤに挟まれていて気絶をしていた。

ボクは急いで救急車を呼んだ。





リンナちゃんはそのまま亡くなった。


「あなたのせいでっ!リンナが…リンナが…」


ボクはリンナちゃんの母親に責め立てられた。

でも、それは本当のことだった。

ボクがいなければリンナちゃんは今頃、トラックに轢かれたりせずにちゃんと走っていただろう。



でもボクはリンナちゃんの言葉を忘れない。


『ミチちゃんが来年の大会で優勝してくれれば私はそれで十分だからね!』



「リンナちゃんのお母さん…私、誕生日にリンナちゃんに言われたんです。来年の大会で優勝してくれって…わ…わたしはっ!リンナちゃんのおかげでここまでこれましたっ!来年の大会で必ず優勝しますっ!リンナちゃんのためにも必ずっ!」


私は泣きながらその言葉を叫んだ。

勇気を振り絞って一人称も私と言えた。

そのまま私は走って病院を出た。



「必ず大会で優勝してやるっ!」





「ヨシダ選手っ!今の気持ちは!?」

「はいっ!嬉しいと言う感情でいっぱいです。」


ボクは今日、オリンピックで優勝した。

中学生の頃の大会から約8年…

努力し続けた。

結局、あれから一人称で私と言えることは一度もなかった。



「ヨシダ選手が陸上を始めたきっかけは?」

「昔、中学生の頃に親友が誘ってくれたんです。親友は誕生日に高いシューズをくれたり、一緒に練習して、一緒に遊んで…たくさん楽しいことをしました。その時、親友がボクの大会の優勝をねがってくれたんです。数ヶ月後に親友はトラックに撥ねられて亡くなりました。ボクは、大会に優勝してからも陸上を続けて、今日やっとオリンピックで優勝することができました…」


泣きながら言う。

報道陣もそこでは静かだった。







「昔はこんなんだったんだ。」

「ミチさんそんなんだったんですね、壮絶な人生を…」

「まぁでも今はこんなこと言ってられない。」

「そうですね。今は陸上よりもやらなければいけないことがありますよね。」

「よしっルイくん!行こう!」



〝寂れた世界で走り抜こう〟

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