冬、青年iii

多能性スマートリングの登場は僕にとって、かなりグッドニュースだった。多分、このドーム内で暮らしている同世代の人間の中で一番救われた奴だと思う。というのも、僕はスマートフォンのように人との非リアルな関わりが多くなるものが苦手だからだ。

 例えば、SNS。毎日秒単位で更新される不特定多数のユーザーの承認欲求、一つの画面に現れる嘘と本音にまみれた無数の虚勢な世界、その世界に望まずとも自ら圧迫されにいく僕。もちろん楽しんで利用できていた面もあった。けれど、それだけではプラスにできないほどマイナスな感情が増えすぎて、消化できなくて、辛かった。

 それならSNSから離れたらいい、という話になるが、僕にはそれができなかった。無自覚な攻撃性がついた承認欲求を甘く見ていたのだ。

 だがある日、相変わらず通学や通勤時に、スマートフォンの画面に自身の好奇心を注ぎ込む人たちを傍観していたら、唐突にその欲求がどうでもよくなった。きっと、全員が依存的にSNSをやっていたわけではないのだと思う。仕事のメールのやり取りをしたり、お気に入りの写真を見返したり、電子書籍を読んだりしている人も中にはいたのだろう。

 けれどあの時の僕は、その場にいる全員が一方通行のSNSを見てただ自分の興味を安売りしているように見えた。あるいは、自信に飢え個我の肯定と拒絶の狭間で狼狽し、愛に妄執しているようにも見えた。これは心の奥で自分がそうなっていることを自覚し、危惧したからなのだろう。

 承認欲求は、汚い。

 自分の中のもう一人の自分が、僕にそう説いた。どう説いたかは、複雑な感情の交差のせいではっきりと説明できない。

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