第二十四夜「自然の星」

 皮肉な事に地球は極端な人口減少により自然が蘇った。ヒートアイランド現象という言葉も今や忘れ去られ、緑と高層建築の共存を達成している。

 これは一重にネルギー使用量の減少と技術革新によるエネルギー効率の向上による物が多い。結局は科学技術の勝利と言って良いだろうが、環境活動家による評価は辛辣しんらつで、何ら問題は解決されていないとされている。

 完全に壊してしまった生態系は復活することはない。人類はそのこと痛恨と捉え、地球環境の保全に努めていかなければならないのだ。

 イーグルは相変わらず真空と闇に体を浸して宇宙の生命とコンタクトを試みる。そして今回コンタクトに成功したのは自然との共存に成功した文明だった。

「ある程度の便利さとか快適さは必要だろう、生活に不自由していないかい……?」

 彼は極めて不思議そうな口調でこう答えた。

「不自由?何に不自由しなければいけないのかな」

「だって、電化製品なんか殆ど無いんだろ?」

「勿論、そんな物無いさ……と、言うか必要が無いかな」

「必要が無い?」

「ああ、暑ければ服を脱いで木陰に行けば良いし、寒ければ服を着込んで暖炉の前に集まれば良い、音楽が聞きたければ自分で歌えば良い。暮らすのに必要なものは全て自然が我々に与えてくれる。」

 イーグルは正直に羨ましかった。出来る事なら彼等と生活を共にしたかった。しかし、彼等の星には一番早い宇宙船を使っても、生きて居る間に到達出来る距離では到底無かった。イーグルに出来る事は彼等の生活風景を頭の中に刻み込んで人々に伝える事だけだ。

「君達の生活は、理想的な生活だと思うよ。きっと宇宙で一番恵まれた生活環境じゃないかな?」

「ありがとう、そう思ってくれるとうれしいよ。でもね……」

「でも?」

 彼は少し躊躇した。

「君達の生活も宇宙では理想的な生活じゃないのかな。」

「え……何故?」

「正直に話してしまうと自然は富を与えてくれるけど、引き換えに不自由も与えてくれる。さっき楽しげな事ばかりの様な事を言ったけど、自然だけで生活するのは結構辛い事が多いんだ。」

「……そうか。完全な理想郷と言う訳では無いんだね。分かるような気がするよ」

「うん、でも完全な理想郷なんて、おそらく宇宙には存在しないよ。きっと何か不自由な事が有るに決まってる。」

 その言葉を聞いてイーグルは自分の生活を考えて見た。そして考えた。楽しい不自由をとるか、辛い自由を取るか……イーグルは迷わず後者を取りそうな気がした。それが自分の弱さだと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る