第十夜「氷の星の宝石」

 イーグルの意識に呼びかけて来る者が居た。彼女は周りを雪と氷りに覆われた世界で暮らしているらしい。

 真っ白な、ふわふわの体毛に覆われた体を持つ彼女にイーグルは話しかけた。

「君は、その星で生活していて嫌になる事はないのかい?」

 彼女は不思議そうに答えた。

「嫌になる?何故なぜ嫌にならなければならないの。ここには、夫も子供も居るし、食べ物も狩りに出た夫が見つけて来てくれて、住居も作ってくれたし何一つ不自由な事などないわ。嫌に成る理由なんて何処にもないわ。」

 イーグルは彼女が羨ましくなった。イーグルは今孤独だった。彼の両親は地球で暮らし自分は起動エレベーター、ネオバビルの居住区に一人暮らす。

 同居人の猫、バベルはいるが猫とは会話することができないし、親友と呼べるものもいないし恋人もいない。孤独の中で自分が嫌になることがある、なぜ自分は人と打ち解けられないのかと。

 イーグルの脳裏には平和に暮らす彼女達の一族のイメージが浮かんだ。ある意味それはイーグルにとって理想の生活のようにも思え、羨望を感じる。

「でも、今自分の子供達は、大きな建物が有る都会に出て、宇宙船で別の星に行きたがるわ。あなたが言う様にここの暮らしは辛いものなのかも知れないわね」

 彼女は少し寂しそうにイーグルに話した。彼女の言葉を聞いて、もし出来るなら自分を彼女の子供にして欲しいと、半ば本気で思った。

「もし、あなたの子供が都会に生きたいと言ったら貴方はどうするの?」

「もちろん、反対はしないけど、その後は凄く寂しい暮らしをする事に成るでしょうね」

 イーグルはその言葉を聞いて暫く考え、躊躇しながらこう質問した。

「もし、僕が貴方の子供に成りたいと言ったら、貴方はどうしますか?」

 彼女は少しも躊躇とまどうう事無く答えた。

「私は、私を頼ってくれる人が居るのなら、全く躊躇わないわ。それが、たとえ他の星の人で有っても。」

 イーグルはその言葉を聞いて本当に救われた様な気持に成った。自分の様な者でも受け入れてくれようとする生命が、宇宙には存在する事を。それだけで分かっただけでも、レーダースに成った自分を誇れる様に感じた。

 そして思う、近いうちに地球の両親に手紙を出してみようと。電子メールではなく手書きの文字による手紙。心を込めて書いた手紙を。

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