第四夜「姿の見えない者の星」

 背の高い樹木は見当たらなかった。見えるのは一面の草原で視界を遮るものは何もない。バッファローくらいの大きさの草食動物の群れが草をはみながら、ゆっくりと移動している様子も見える。

 イーグルを呼び寄せたのはおそらくこの動物の群れでは無いだろう。ただ、この近くに目には見えないが、圧倒的な力を感じた。有る意味危険な感じもするその感覚。イーグルは意識の逆流を防止する装置のスイッチに手を掛けながら、恐る々、それに近づいて行った。そこはイーグルの意識を鷲掴わしづかみにするほど反応が大きい場所だった。だが彼には何も見えなかった。そしてそれは突然イーグルに話しかけてくる。

 「……おまえは…なにもの、だ…」

 そう話し掛けられた時に、やっと同期した生命体の正体が何であるか理解出来た。ここは慎重に対応しないと自分の身はおろか地球の人類への悪影響も考えられた。

「僕かい?僕はイーグル、地球という星に暮らしている人間とう生き物だよ」

「生き物、人間は体を持っているのか?」

「ああ、持っているよ、それが……」

 イーグルはそこまで言ったときにしまったと思った、質問の真意に気が付いたからだ。彼は何万年前になるのか想像できないが、それまで持っていた実態としての体を捨て去って究極の進化を遂げた種族なのだ。

 しかし、イーグルがあらわれたことで彼の考えは大きく変ってしまったようだ。高等生物としての肉体が欲しい。たとえ、短い時間で朽ち果てたとしても、触れば温もりの有る体が欲しいと思ったのだ。

 予想通り彼はイーグルの意識を伝って地球が何所に有るのか探そうと試みたが、イーグルは咄嗟とっさに意識を遮断する装置のスイッチを押した。

 彼との交信は終わった。しかし、これで良かったのかという疑問も湧いてくる。自分や他の人間を巻き込みたくない一心の交信切断だったが、もう少し彼の話を聞いてみるべきではなかったか。もしも彼の種族のように肉体に束縛されない進化で永遠の命を手にすることができるとすれば、ひょっとしたら地球人類は次のステージに進み、今の閉塞状態を打開できたかもしれない。空間に漂う意識だけの生命体となることは人間にとってプラスではないのだろうかとも考えたからだ。

 入れ物を失い永遠の生命を手に入れるのか、朽ち果てる入れ物の中で限りある時間を過ごすのか、人間の進化はどちらを選択するのだろうか。イーグルには分からなかった。しかし永遠の虚しさは心を蝕み、絶望を与えるかもしれない、永遠は希望だけではない筈だと。

 イーグルはもう一度彼の言葉を思い出した『人間は体を持っているのか』それは羨望せんぼうであったのではないかと。

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