いつかまたこうして会えるのを楽しみにしている

麻木香豆

第1話

 娘の紗奈は今年5歳だ。2ヶ月に1回会っている。そう、実は紗奈とは別で暮らしている。 

 去年2020年2月29日、閏年、そして円満離婚の日に俺と妻は離婚をした。恋愛結婚だったが結婚してからわかった浮かび上がった価値観の違い。


 離婚して一年経つ前に元妻が再婚したのだ。早いだろ、と思うかもしれないが僕ら自身も出会ってすぐ結婚、子供が産まれた。(いわゆる授かり婚)彼女自身は一目惚れ体質でこれ、と決めたら突き進む性格であり、俺がいいと思ったからすぐ子供を作ってすぐ結婚と行動に移った。

 俺はもっと遅くと思ってたし、色んな人を見て2人きりの時間をゆっくり味わってから子供を、と思っていた。ほらこの時点で価値観は違っていたのには全く気づいていなかった。


 せめての抵抗としてうちの死んだ爺ちゃんが閏年に結婚して四年に一度の結婚記念日を祝っている姿を子供の頃から見ていたからじゃあ僕も、と偶然結婚した年が閏年だったから少し嫌がった彼女を説得させて2月29日に結婚したが、まさか離婚した時に彼女から提案されたのが結婚記念日と同じ日は「円満離婚の日」と持ちかけられた時は一本取られたもんだ。


 てことで行動の早い妻は結婚した。そしてまさかだと思ったが妊娠もしている。計算的にはあっという間すぎるだろ。

 俺はそう早く次には移らずに仕事に精を出す。今が一番の頑張り時。そして2ヶ月に1度会える紗奈のことを考えれば苦ではない。


 残業しながら職場で食べるマルちゃんの緑のたぬき、身が引き締まる。自分も頑張りすぎだ。でも仕事をしながらも腹満たすことができるのは、お湯を注いで3分待てばできるこの緑のたぬきのおかげだ。寂しさ紛らわすために夜まで仕事を入れているもいうのもあるが。


 そんな最中、元妻から連絡が来た。

「……哲太、今病院なんだけど、入院することになったの」

「何! 何があった、怪我か、病気か」

いきなりすぎてつい職場というのを忘れて声を大きく出してしまった。

「違うの、切迫流産で安静にって言われてたのに安静にしてられなくて入院になっちゃった」

 あぁ、彼女らしいなとすぐ思った。彼女が離婚してから反対された親に頼らず1人で子育てをしながら仕事を見つけバリバリ働いていた。養育費は払っていたし、近くにいるから俺を頼れと言っても頼らなかった。一つのことに集中したらもう他には目がいかないんだから……。

 結婚相手も職場の上司というじゃないか。もう一緒に暮らしてはいるらしいし、紗奈も笑顔で新しい父親のことを話すから関係は良好のようだが。


「あのね、夫が転勤しちゃったのよ。ほら、結婚したらどっちかが飛ばされるってやつ、まさか私じゃなくて夫がよ。残った私は上司にマタハラされるし。でお互いに実家も遠いし夫もしばらく帰れない」

 夫が転勤だということは全く知らなかった。まさかずっと1人でしばらく子育てしていたのか。お前がいつも人に頼らずにやってるからだろ。そうだ、先日紗奈と会ったばかりである。その時は彼女1人で少し大きなお腹でついてきたのだが、何も言ってなかったじゃないか。


 それはともかく、紗奈はどうするんだ?

「……今夜、預かるところがなくて。病院も空きがなくて。サービスや保育園も対応できないって。先生が言うにはしばらく入院で明後日には夫も帰ってこれるんだけど、それまでどうしよう……今すぐ来て欲しいの」

「えっ」

「あなたしかいないの」

 元妻にそんなこと言われてしまい、戸惑うが電話の奥から紗奈の泣き声がする。のだろう。紗奈は母親の入院を知っているのだろうか。先日会った時には自分がお姉ちゃんになるんだよって楽しそうな反面、少し寂しい顔をしていたのは気のせいか。


 同僚に事情を話すとすぐ行けと言われ、会社を出た。そして実家に電話をした。

「すまん、遅くに。今から一時間後くらいにさ、そっち行く。あとさ、もう一つ布団を増やして欲しいんだが……」

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