第23話 来訪者3
祖母の家に帰って来た。
スーツを脱いて、クローゼットに仕舞う。
もう当分の間、着ることはないと思う。
サイオン製作は、私服通勤で良いと言われたからだ。
『防虫剤を買って来た方が良いですよ。それとYシャツは、今日中に洗濯すること!』
ふむ? 服装には無頓着だったので良く分からないな。
まあ、アドバイスを貰ったんだ。従わない理由はない。
Yシャツを洗濯機に入れて、防虫剤を買いに行った。
防虫剤は、近くの衣料店で購入。
ついでに古本屋で立ち読みを行った。この店は、長時間立ち読みしても注意されない。
気に入った漫画とラノベを一冊ずつ購入した。
気が付くともう夕方だ。
祖母の家に帰り、昨日受け取ったモニカさんのお弁当を温めて食べていた時だった。
玄関をノックする音が聞こえた。
「はーい。少し待ってください」
インターホンくらいは付けた方が良いかもしれないな。工務店に相談するか。
しかし、こんな時間に誰だろう?
『っぷ。クスクス。誰でしょうね~』
サクラさんが笑っているので、不審者ではないと思う。
玄関を開ける。
「……こんばんは。西園寺さん」
「……こんばんは。優莉さん。契約して頂いてありがとうございます。
来週から頑張ってくださいね。それと、また作って来ました」
風呂敷に包まれた、お重箱を渡される……。
「そんな。また頂けるなんて……。ありがとうございます」
ここで、西園寺麗華さんの表情が曇った。
鼻をスンスンと鳴らしている。
「……ちょっと失礼しますね」
そう言うと、麗華さんは、家に入って来た。
そして、居間のモニカさんのお弁当を見て固まる……。
「……愛妻弁当ですか? 一人暮らしだと思ったのですけど、余計なお世話だったみたいですね」
愛妻弁当? これそう見えるの?
いや、手作りだけど……。
どうしようか。異世界で人助けして、対価でお弁当を貰っていたとは言えない。
「え~と……。バイト先で、花見に呼んで頂いたのですけど、……その残りです」
言い訳にしては苦しいか?
桜はもう散っているし……。だけど、アイディアが出なかった。
「ふ~ん。そうですの……」
疑われている……。
異性の友人に作って貰ったと言った方が良かったかな? そんな人いないけど。
いや、かなり豪華だし、手の込んだ料理が多い。異世界の料理だし、見たことない素材も使われている。
下手な言い訳は、墓穴を掘りそうだ。とりあえず、言葉少なめにしてやり過ごそう。
そう思った時だった。ここで、麗華さんの執事さんが割り込んで来た。
「お嬢様。優莉さんはヒモ生活を送っているのかもしれません。いわゆる、隠れ家を持っていると推測されます」
麗華さん、とても怖いです。髪の毛が逆立っていますよ! オーラが出ていますって!
「そんなまさか! 違いますよ! 仕事先の人に作って貰っただけですって!」
「お嬢様。古い言葉で、『現地妻』と言うのがございまして……」
執事さん! 揚げ足をとらないで!
「……これは、本格的に監視と矯正が必要かもしれませんね。
分かりました。優莉さん。これから毎日お伺いしますね」
怖い笑顔の麗華さん。オーラがすごいです。
「はひ……」
こうして、麗華さんは帰って行った。ちなみに、麗華さんのお弁当は受け取っています。
◇
麗華さんを見送って、祖母の家に入った。
『サクラさん。どうして教えてくれなかったのですか?』
『ぷぷ。手遅れでしたね。匂いは瞬時には消せません。ファ〇リーズも買ってないですし。
これからでも、スキルで作りますか? でも、無駄になりそうですね~』
『これからどうすれば良いですか?』
『十九時前後は、この家にいないとダメですね。それと、異世界から持ち込む物も注意した方が良いですよ』
バイトもあるし、自由気ままな、異世界転移生活は出来ないか……。
午前中は、バイトで拘束されて、十九時はご飯を受け取る必要がある。異世界に行けるのは、午後の約六時間か、もしくは夜中。それと、休みの日か?
こうなると異世界では、大森林内の討伐か、ダルクへ監視に行くくらいしか出来ない。
王都とか行ってみたかったんだけどな。当分先になりそうだ。
『どの道こうなります。優未さんも同じでしたよ。
でも、こちらの世界での生活を優先してください。異世界での生活は無理のない範囲でお願いします』
ため息しか出ないよ。魔物のドロップアイテムとストアで何とかなりそうだと思ったのにな……。
異世界への完全移住は、考えていなかったけど、これからは時間的な制約が大きくなりそうだ。
その後、モニカさんと麗華さんのお弁当を全部食べました。
これ、太らないか心配だ……。
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