第29話 フリップ王子

「やあ、ルイーゼ嬢大変な事になったね」

と言いながら入ってきた、フリップ王子様。なんて言えばいいかわからないが、一言で言えば、こいつ空気読めないなだ。

「わざわざ学友を心配して下さるなんて、流石は生徒会メンバー、心優しいですね」

と空気読め、と本当は言いたい。騎士や内政官も

「困ります、外部と接触禁止が出ています」

と言う。フリップ王子様は両手を挙げて、

「わかった、わかった。すぐ出て行くよ。お見舞いの花だけ渡していいかい?」

と聞きながら無理矢理、私に花を渡しながら、紙を握らせる。

すぐに玄関に向かって歩き、待っていた馬車に乗る。一礼だけして私は、花束をリマに渡し、手紙は腰に巻いてあるリボンで隠した。


部屋に戻り手紙を見る。


日が暮れたら、執務室の窓を開けて

そこで待機


何、この命令口調、と怒りたくなる文面なのに、涙が出るほど嬉しい。

信じてくれているのかも、そんな期待。

それだけで、こんなに嬉しい。

このメモのような手紙をバードの羽とともにハンカチに挟みリボンを柔らかくして広げ二つ折りにして隠し持った。

わからないけど心強くて、一人バタバタしていたみたいで冷静になっていく。


内政官が帰る為の見送りに皆、玄関に向かっていた。私は、窓から夕焼けを見ながら、執務室を目指す。やはり鍵が締められている。

今朝と同じように、鍵を外し、中に入りまた鍵をかけ直す。窓を開けて、隠れるとしたら、壁かな。地図が貼ってある壁を柔らかくしてそこにあった本で人が二人ぐらい入れる凹みを大きく作った。

「地図伸ばしたらバレるかな」

と言いながら、地図を伸ばす。あまり、地図は伸びない。

「普通、紙は伸びないだろう」

と声がする方を見れば、フリップ王子様がいた。

「なっ」

シィーと言われた。仕方ないソファを伸ばして下部分は隠して、上部は、地図で隠す。

何も話さない。バレたら大変だから当たり前だけど。

呼吸だけ後、心音。

何故私、こんなにドキドキしているのかしら。こんな状況誰だって、ドキドキするに決まってる。

鎮まれ、心音。


すると、ガチャガチン…

ゆっくり扉が開く。

そして灯りがついた。


凄い緊張する。

足音が真っ直ぐ机の方に向かい、書類を乱雑にペラペラめくり、

「どこだ?どこにいった、紙。あの役立たず内政官め、何故あんなわかりやすいところに紙を置いたのに、気づかない。今日見つかる手筈なのに、証拠をなくしたらトルネス様にお叱りを受けるぞ、どこにあるんだ紙」

この声はステファンだ。

そして、やっぱりトルネス公爵に命令されたのか。

私達が領地に行くのも待ち構えていた。

ステファンから連絡があったに違いない。そしてタイミングよく北部、南部とガルバン共和国の難民に遭遇。全て仕組まれていたと言われた方がすっきりする。

ただアリサ夫人のお茶会、あれは、カトロ侯爵夫人を仕掛けたのをレイラ様が撃退した?そもそも何故あのタイミングでレイラ様は、生徒会の一年生を増やすと言ったのかしら?

誰かに誘導された?

あの時フリップ王子が執務で忙しいからって…


「捕らえろ」

とフリップ王子の声が響き、地図が乱暴にめくりあげられた。

扉から騎士が入って来た。お祖父様も。

びっくり顔のステファン。

両手を拘束された。お祖父様が、

「何故だ。ステファン。何故こんな真似をした」

と言うと、ステファンは、

「何の事でしょう?私は、書類を探していただけです」

と平然と言う。お祖父様の肩が揺れている。あれは、相当お怒りだ。

「この馬鹿タレ。お前の声はみんな聞こえていた、トルネス公爵に言われて証拠を置いたこと、聞こえていた」

と言われれば、ステファンは、顔色を失った。

「証拠がない」

とぼそっと言えば、もう一度

「証拠がないだろう?トルネス様に何を置けって。証拠ない」

と笑っている。

腰に巻いたリボンを解く。バードの羽の入ったハンカチと別に紙を出した。


『密約書』


「何故お嬢様がこれを持ってる。そもそもどうやって中に入った?合鍵を持っていたのか?この壁の凹みは何だ…」

「特にあなたに言う理由はありませんわ。あなたは、悪い人で捕まる人」

と言うと、

「俺は悪くない。俺は言われたからやったんだ、あの方は、怒っているんだ」

「何を?」

と聞いても答えず連行されて行った。


「羽…」

とフリップ王子様が言った。ハンカチから飛び出している羽。

「宝物でお守りで…ヒーロー」

少し頬が熱くなり最後尻つぼみになってしまった。

「えっ、鳥が」

と言う。今、バードを馬鹿にした?この人バードの事、鳥って言った!さっきのドキドキ返して欲しい。やっぱりこの王子は、つまらない令嬢とかいう王子だ。ふいっと横を向くと、我が家の大きな木にバードが止まっている。

「バード、バード、会いに来てくれたの?」

と窓に向かって言う。

後ろで馬鹿みたいに笑っている王子様。

「ヴハハハッハハハ、鳥に話しかけてるよ」

と笑っている。

「バードは、賢いから人の言葉がわかるんです」

と言うと、フリップ王子様は、窓を大きく開け腕をくの字に曲げて

「バード!」

と呼んだ。木から真っ直ぐこちらに向かって来る。窓付近から翼を折り畳み、中に入り込みフリップ王子の腕に止まり、

「ヴルフゥー」

と返事をした。

あぁ、やはり素敵な姿。艶のある羽。今すぐ抱きつきたい。たまらない。

「ルイーゼ嬢、お腹が空いているのか?バードは食べさせないよ、いくら肉好きでも」

「バードを食べるわけないじゃないですか?失礼にもほどがあるでしょう」

とぷりぷり怒っていると、バードが

「ヴルフゥー」

と言った。

「慰めてくれるの?バード」

と背中を撫でる。あぁー気持ちいい。

「イチャイチャしないでくださいよ。フリップ王子。忙しいさ畳みかけられるのは俺らです」

と言ったのは、生徒会の二年生メンバー、いつも目立たず黙々と仕事をしている、ソリオ様にレガシー王子の側近のフランツ様。

何だ一体。

それに


「えー、バードの飼い主フリップ王子様なの⁉︎」

と今更驚いた。

「そうだけど、何、私じゃ駄目なのか?」

「いえ、そういう意味じゃなくて、えっバードを助けたのも偶然ですよね」

「あぁ、マゼラン達を捜索中カトロ侯爵領で矢を撃たれたようで、マリノティス領は偶然だ」

「仮面パーティーでフリップ王子様は、囲みが出来ていたとエバーソンから聞きました。木の上にいたバードとダンスした人は…」

急に二曲踊った事を思い出す。あれは、三人で踊ったし、特別な何かはない、誰も見てなかった。

「仮面パーティーにしたのは、自由行動がしたかったのとアドバイスを貰っていたのとまさかバードの手当てがルイーゼ嬢かと驚いたよ」

もう思い出すな、と思えば思うほど、頬が熱くなってくる。

もうおしまい、今日は、全てにおいて混乱。

何故こんなタイミング良く出来るのかとか言いたいことはあるが、鼓動の早さも頬の熱さも全部全部、フリップ王子様のせい。


「今日は、何が何だかわからないぐらい話が進んで、私パニックで、もう駄目です。ごめんなさいバード」

と一気に力が抜けた。それをすかさず、左手で支えるのは、フリップ王子様。

何だろう。これは、物語。

まるで王子様がお姫様を抱き抱えるようで、ふわふわする。

「仕方ないか」

と言ってお姫様抱っこされて廊下を歩いている。

お母様が、

「あらあら、まぁ。うふふっふ」

と笑っている。

良かったね、お母様、お父様帰ってくるよ。きっとすぐだね。バードが来てくれたんだもの。


力が抜けて、揺れが気持ち良くて、現実か夢かわからないけど、ふわふわして私は、お姫様で、似合わないのに幸せを感じた。

昨日と違って、温かさに埋もれていくようで、あやふやな記憶ごと私のヒーローが全て変えてくれた。

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