第19話 救助1

ハンカチの刺繍が完成して南部の村にお祖父様と視察に行く。村に大きな柿の木や栗の木の葉が緑色に輝いていて収穫時期が楽しみだ。

「こちらの村は、川も細くなってますね。この先の川はどこにたどり着くのでしょう?」

と聞くと、お祖父様はお父様に似た楽しげな顔して、川の終わりを見に行こうと言う。

思い出してみても川の先を私は知らなかった。

「はい、楽しみです」

と答えると、お祖父様もうなづいた。こちらの村で昼食をいただく。名物の平べったいパンに細かく刻んだ野菜とお肉を挟んだパリっとしたパンだ。香辛料、この南部村では山椒が取れるのでパンチが効いている。

香もスパイシーでいい。

「癖があるのに後を引く美味しさがたまらないですね、お祖父様」

「本当に、ピリッとして今の季節にぴったりだね」

と食べていく。

食べ終われば出発だ。馬を借りて、お祖父様に相乗りして乗馬だ。

「お祖父様、私も一人で馬に乗ってみたいです。風を切って走ってみたい」

と言うと、では練習しようと言ってくれた。

また領地で楽しみが増えた。

川は細くなったと思うとまた幅が広がったり、流れが遅いと感じたりと面白い。そして左から枝分かれのものが合流し、すぐ先のところでは、右から合流し、また流れていく。

「お祖父様、川の流れも幅もまた広がり続いていきます」

「そうだね」

とお祖父様は答えた。

川の先をジッと見れば、人のような…頭の中にチラチラ出るのは、助ける、助けないの選択肢。

何を考えているの私は!

「お祖父様、誰か倒れていませんか?」

慌ていう。お祖父様が一緒に来た護衛に声をかけて、様子を見に行かせた。人だったようだ。護衛が川から道に移動させている。お祖父様も移動して現場に近づく。黒髪の長い人、身なりは整っているよう。私からはそんな感じにしか見えず、護衛がその人の頬を叩いて意識を確認している。

お祖父様が

「館に運んで医者に見せよう」

と指示され、私達は、領主館に戻った。先に出た護衛の一人が医者を呼び、現在診察をしている。

あの時ちらついた選択肢、私はそんなにもゲームを意識し始めているのかと情け無い。お父様だってゲームは楽しいけど私達は、ここで生きてると言っていたのに。こだわっているのは私だ。花をもらったから選択なんて相手からしたら、馬鹿じゃないかってそんなつもりないよ、勘違いすんなってガツンと頭を殴られたみたいだったが…

それで良かった。


ヒロイン?私には荷が重い。


「お嬢様、倒れた方の意識が戻りました」

「良かったです。知らせてくれてありがとう」

夜は更ける、今日は鳥の鳴き声する、風は穏やかでカーテンがゆらりと揺れる。星も綺麗に輝いていた。


朝になると領主館は忙しそうにメイド達や執事が客室を整えていた。私は朝食を食べに行く。そこに、

お祖父様、お祖母様がいて、私も席に着くと、お祖父様から昨日の倒れた人について、

「ルイーゼ、あの方は、ガルバン共和国の貴族のようだ。持ち物に紋章があったが、私では判別は出来ない。朝方に手紙を出したが、指示が来るのも夕刻ぐらいだろう。それまで騒がずにな」

「何故倒れられていたのですか?」

「襲われたと言ってる、しかし名前が思い出せず、記憶が混濁しているようだ」

「お祖父様、お父様が北部の町で会ったガルバン共和国の村人も数日前ですし、何かご存知ですかね?」

「そうだな、念のため、北部の町でその者と顔会わせをしてみようか」

と思案していた。

私も興味はあるが、何も出来ないので黙っている。今日から乗馬の訓練もするので忙しいのだ。 


天気も良い。馬と仲良くなる為に餌をあげたり、櫛で毛並みを整えていざ、出発。

西側の庭園で、ちゃんと御者が歩いて馬を引いてくれる。走るわけでもなく散歩、これが、またのんびりまったり気持ちいい。目線が高くなって遠くまで見えるみたいだ。

のんびり散歩をしていると、門から2頭の馬と人が真っ直ぐ玄関に行ってしまった。

「お父様?」


朝方の手紙がもう届いたのかと思うと、やはり王都に近いなと思った。

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