第10話 新国王誕生

 ナライは国費の大半を魂発生装置の製作に当てた。国王になったと言っても、研究室と工場の往復に忙しがった。モナカを国王補佐官として、指名した。銀河はモナカが思いつく計画の対応に追われている。何を置いても、魂製造が急務だった。


「明日ね、舞踏会をするから招待状を出して、千人呼びましょ。プリンセスから声をかければ、皆んな自分の国が好きになるはすよ」

モナカはプリンセスになったのかあ。ナライはため息をつきながも、必死で機械を組み立て設置を進めた。


いくら急いでも、人口減少は止まらない。モナカが社交的であるのがありがたい。国民の顔はすべて王宮に向いている。


『約束の三年が経過した』


 ナライは期日があることなど、気にも止めていなかった。銀河が『お迎えだよー』と上機嫌でやって来た。それはナライの死を意味している。ナライがユニバーサル大学の学費を払えたのも、好きな研究ができたのも、あの契約から始まったたのだ。

「立ち話も疲れるから座らない?」

 白衣を羽織ったナライは、おにぎりを食べ始めた。いつも忙しくて、食事の暇もない。


「君は素晴らしい女性だ。君の魂は俺の中で活躍するだろう」横に座った銀河が神妙な顔で迫ってくる。

「そんな契約したっけ? 覚えてないけど」

「ここに契約書がある」

「どらどら、見せて」

「これ、確かにサインしてあるけどさ、修正したじゃん」

ナライは引き出しから砂消しゴムを取り出して、契約書の書き損じて修正テープで消した 部分を消し消し、し始めた。

「銀河、見てみて、お主にはモナカの魂をくれてやる。サインはモナカのサインだよ」

「卑怯だ、モナカの魂なんか死んだほうがまし」

「それなら、できたてのほかほかの魂を上げる」

「始めから騙されたってことだね」

「ホントにしっかりしなよ」ナライは銀河の頭を拳で小突いた。銀河がウゥーっと、獣のような声で唸っていた。


 ナライはテラスに出た。王宮のテラスから夜景を見るのが好きだ。たくさんの発生装置から、魂がとめどなく吐き出される。命が生まれ躍動している。魂の色は蒼ざめて、どの魂も哀しい色で満たされている。


たとえ寿命が五十年から百年に伸びたとしても、やがては死にゆくことを、生まれた時から細胞単位で記憶している。悲しみに満ちた輝きがこれほど心に響くなんて、想像もできなかった。

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