S.W.S.C!(桜ヶ丘西高校、ストリートダンス部)

人紀

プロローグ

 僕は、彼女から目をそらすことが出来なかった。


 テレビアニメ、美少女戦士アイレン少女隊のイベント会場で、僕はその少女に魅せられた。

 浴衣をアレンジして作られた、ピンク色の戦闘服に身を包む彼女は、野外に設置された舞台上で縦横無尽に走り回っていた。


 何で、彼女なのだろうか?


 彼女ばかりに目が行ってしまうのだろうか?


 一般的な女子高生より背が高いってこともあるだろうか。

 背中をさらさらと流れる漆黒色の髪も、一役買っているかもしれない。

 そこらのアイドルともタメがはれる容姿や、アクション俳優張りの身のこなしなんかも要因の一つだろう。


 ただ、それだけではなかった。


 その少女はそれだけではなかった。


 彼女は本当に生き生きしていて、その場にいることが、本当にうれしそうで――その輝きに僕は心を鷲掴みにされたのだ。


 少女は仲間たちと楽しそうに語らう。


 時に笑い、時に怒り、時に泣き、時に励まし合う。

 ごくありふれた少女の物語であるように。

 きらきらした希望が満ちあふれた日常を過ごしている。


 そこに悪のモンスターが現れた。


 強大な敵を前に、彼女と四人の仲間たちが次々と傷ついていく。

 どんなにがんばっても、どんなに歯を食いしばっても、全くかなわず倒れていく。

 その中の一人が、弱音を吐く。

 もう傷つきたくないと、涙を流す。

 その時、彼女は悲痛な顔で叫んだ。


「誰だって、傷つきながら、それでも前に進んでるんだよ。

 もちろん、わたしだって!

 負けないで! 一緒に戦おうよ!」


 胸が締め付けられた。ついには、涙が出てきた。


 数ヶ月前に行われた文化祭で、僕は最後まで戦うことが出来なかった。


 引っ越ししていく幼なじみの為に、絶対みんなでがんばろうと、成功させようと声高に――傲慢に――言っていた僕が、すべてを台無しにしてしまった。

 勝手に自己嫌悪に陥り、学校や友達、幼なじみの女の子からも怯えて、逃げて、絶望して。

 何もかも、無茶苦茶にしてしまった。


 少女は、苦しみながらも仲間たちと共に、モンスターから距離を取る。


 そして、一斉に走り出した。


「アイレェェェン、キィィィク!」


 突き抜けていく風を全身で受けたような。

 それで、目の前の霧が払われて、世界が突然明るくなったような。

 そんな、心地になった。


 何で、彼女はこんなに輝けるのだろうか。


 僕にとって、地獄だった舞台の上で。


 絶望しか得られなかった、あの場所で。


 ずっと、彼女を見ていたい。

 心の底から願った。

 願った……のだが……。






 アップテンポのヒップホップがガンガン鳴り響く。

 高校の軽運動室で、僕は彼女の隣に並ばされていた。

 目の前にいるのは、制服を着崩しているイケメンの先輩に、おしゃれな同級生の女の子だ。

 二人とも不敵な笑みを浮かべている。

 僕らは……相対していた……。


 二対二、ツーオンツー。


 呼び方は何でも良い。

 それより、訊きたいのは、何で僕がこんな目にあっているかだ。

 何で僕がこんな所にいるかだ。

 まるで、ぼんやり映画を見ていたら、いきなりその登場人物にスクリーンの中へと引きずり込まれた気分だった。

 ああ、アイレンをやっていた少女が中指を立ててガンを飛ばしているのにも頭が痛い。

 しゃがれた声が大音量で響き渡り、ラッパーが煽るように叫ぶ。


『おめぇ、踊り通し、俺、思い通り。

 抗えるわけねぇ、マジでぜってえぇ。

 Y'all cannot but dance!

 According to my thought!

 止まらねぇ、止まらねぇ、止まらねぇ、止まらねぇ』


「ま、マジですか!?」心の中で、思わず突っ込みを入れた。

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