メアリー・スーには屈しない

氷雨ユータ

FILE 01 欺心暗鬼

神に愛された女子高生

 この世には、神様に愛された人間が居る。頭が天才的に良かったり、体力が人間離れしていたり、才能としか言いようのないくらい人づきあいが上手かったり、非現実的なくらい物事がうまくいったり。実際、人類が地球の支配者となって以降、そういう人間は大勢生まれた。そういう人間が文明を作り、科学を作り、歴史を作った。


 俺―――檜木創太が、その天才の中に含まれる人間とは天地がひっくり返ろうがお金を積まれようが言えそうにない。体力には自信がある。勉強も人並みには頑張って来たから自信が持てない訳じゃない。どちらかと言えば自己暗示は得意な方なので、自信は人よりも素早く持てると思う。


 だが、それだけだ。それだけで天才は名乗れない。神様に愛された、とは言えない。世の中のほとんどの人間は俺みたいな優秀止まりだ。そしてたくさんの優秀者は、総じて凡人と呼ばれる。



 天才とは―――例えば今年入学した一年生。周防メアリの様な事を指す。



 誰よりも頭が良く、誰よりも運動神経が良く、誰よりも成功を収めている。俺は小学校の頃から……いや、幼稚園の頃からずっと彼女と一緒だったが、失敗した所を見た事がない。老若男女およそあらゆる全ての人間から好かれ、信用される。神様に愛されているとしか言い様がないくらい、彼女は失敗をしなかった。挫折する事が無かった。俺はそんなアイツの事が、大嫌いだった。


「は? アイツの事嫌いとかねーわ」


「……ごめん。メアリちゃんの事嫌いな奴とは友達になれないわ」


「―――創太君、先生にはよく分からないよ。メアリさんはとても良い子じゃないか」


 俺の気持ちは誰にも理解されない。俺以外の皆が、メアリの事を信頼していた。たとえ嘘でも「嫌い」とは言えないなど、その好かれ方は尋常ではなかった。俺一人が彼女を嫌っているせいで、気が付けば家族との関係も崩壊していた。流石に絶縁とまでは行かないが、家では両親、妹、共に口を聞いてくれない。俺の家族は、たった一回遊びに来ただけの彼女の何を見てここまで入れ込んでいるのだろう(俺は招き入れたくなかったが、周囲からの圧に耐えられなかった)。








 メアリと知り合って十一年。高校一年生となった今でも、俺は嫌われていた。

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