拾弐 忠告の愛情と幾多の周囲

半妖は眺める

忠告の真偽しんぎと込めた思いを


ある国での事

先の動き絵の件

一人の男が

それを見ていた


彼は義理深い性格で

その俳優に憧れており

幾多いくたの支持者の

一人でもあった


己でも演技を学び

駆け出しとして

あらゆる事象をかてとして

目につく物を吸収していた


駆け出しは器用に立ち回り

貢げるような金銭は無くとも

俳優のふところに入り様々な前座を行い

少しずつ人気を増やした


同時に手先が器用で

俳優の命により

小道具や宣伝を作り

可愛がられていた


それ故だろうか

突然来た動き絵技術に

大変な感銘かんめいを受け

自分にも作って欲しいと

願うようになった


義理堅ぎりがたい彼は

軽々しく依頼する事は出来ない

まずは己の演技を磨こうと

必死に鍛錬たんれんを重ねた


俳優の演技を体感し

周りの演者達と交流をおこたらず

演技力と人脈を積み重ね

自分の存在を印象付けた


そんな駆け出しの男を

動き絵の男は興味深げに見ていた


駆け出しの男は声にも魅力があり

演技と共に声劇もたしな

様々な事に挑戦し

己に向いている分野を

模索していたのだ


可能性を秘めた駆け出しの男に

動き絵の男も感銘かんめいを受けた


発展途上の二人は直ぐに意気投合し

ぽつりぽつりと話をするようになった


「動き絵は無音である」

「音や声があればもっと広がる」

「ならば貴方に試して頂きたい」

「共に新たな分野を開きたい」


「大変光栄なお話です」

「是非ともお受けしたい」

「しかし私は俳優殿へ義理がある」

「もう少し時間を下さい」


俳優の独占状態となっている

動き絵である

技術発展に手を貸す事は

俳優にあだなす事と同じ


駆け出しの男は迷っていた


しかし人とは

義理に義理で怒るもの


その後はどうなるか

私は眺めた


俳優は傲慢ごうまんを極め

捧げられていると履き違え

動き絵の男を軽視し散々と利用した

互いの利益など忘れていた


それを目の当たりにした

駆け出しの男は

尊敬している俳優に

多大なる怒りを覚えた


研鑽けんさんおこたらぬ彼は

俳優を心から尊敬しているが故

その傲慢ごうまんさが許せなかった


立場を忘れ、思わず訴え出たが

俳優は面倒くさそうに

承知した、とだけ言い放った


俳優にとって駆け出しの男は

自らを支持する有象無象うぞうむぞうの一人

歯牙しがにもかけぬ様子で

手をひらひらとさせただけだった


駆け出しの男は

冷めた目に変わった


その時の表情は

動き絵の男と同じだっただろう


私はなぜこの俳優を

目指していたのだろう?

私が目指すものは

こんな傲慢ごうまんさなのか?


違う、違う


自分の可能性を

試したいのでは無かったか?

様々に広がる道を模索し

自分を確立したいのだろう?

それならば、

自分が今するべき事は?


駆け出しの男は

動き絵の男の元へ向かった


俳優への義理など

もう過去へ置いて来た

是非、共に

新たな世界を切り開こうと


二人は固く握手を交わし

動き絵と音声を合わせる

技術へと着手し

試行錯誤を重ねた


そして試作品を作ると

隣国の商人組合へ話を持ち掛け

商品広告の提携を組み

住まいを移して活躍した


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

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