#38 複雑な感情と内助の功
「ふぅ~・・・まぁね、あの時は本当に大変だったよ。正しく晴天の霹靂だったし」
『はい・・・』
「何より、セツナちゃんの彼氏がもう見てられないくらいボロボロになっててね・・・」
『・・・』
ねーちゃんの元カレの話が出てきて、下げた頭を更に下げたくなってきた。
「ん~、でもね、自分でも良く分かんないんだよね。 怒ってるのか悲しんでるのか心配してるのか」
「当時は怒りの気持ちが強かったよ。 ”何やってるのよ!彼氏のこと馬鹿にしすぎよ!”って。 それで怒りの気持ちが落ち着いてくると、今度は悲しいの。”何で何も相談してくれなかったの? 私はそんなに頼りにならなかったの?”って。 高校卒業するまではずっとそんな感じ」
「でも大学入ってからは環境が変わったり人との付き合い方とか変わって来たせいか、ほとんど思い出さなくなってた。たまに思い出しても、辛くなるから直ぐ気を紛らわせたりしてね」
「それで今日せーくんからの連絡で久しぶりにセツナちゃんの名前聞いて、最初に思ったのが”セツナちゃんの身に何かあったの?”っていう不安というか心配の気持ち。 それでせーくんの声聞いて、落ち着いたせーくんの態度から、心配したけど大丈夫なのかな?って思って、そしたら懐かしい気持ちが湧いてくるの。 あれだけ怒ったり悲しんだりしたのに、私はセツナちゃんやせーくんを懐かしいと思ったの」
「正直言うと、いまそんな自分に戸惑ってるんだよね。 セツナちゃんに会って私は怒らないといけないの? キズ付いた後輩達の分も私が怒らないといけないの? そんな資格、私にあるのかな? 残された生徒会メンバーとしては怒るべきなんだろうけど、本当は親友として私はあの時、セツナちゃんを見捨てずに寄り添うべきだったんじゃないの? セツナちゃんが絶望している時に、私にだって出来る事があったんじゃないの?って、今そんなこと考えちゃってるんだよね」
『はい・・・』
「だからさ、せーくんの謝罪に今はどう返事すれば良いのか分からない。でも、私からの希望は、1度セツナちゃんに会わせて欲しいの。 そこでセツナちゃんに怒るのか懐かしむのか悲しむのか自分でも分からないけど、多分会わないと分からないこととかいっぱいある気がするのよね」
『ユキさん・・・ありがとうございます。是非ねーちゃんに会って下さい。 今日はそのお願いの為にユキさんに会いたかったんです』
「ふふふ、分かったわ。 セツナちゃんと会って、怒りも悲しみも心配も全部ぶつけてみるよ」
「あ、あの! 私からのお願いなんですが、セツナさんと会うのをセツナさんの部屋で会ってあげてくれませんか? セツナさん情緒不安定なので、たぶんユキさんと会っている間に取り乱すんじゃないかと思うんです。 だから人目がある場所はなるべく避けてあげたいと思いまして。 セツナさんの部屋がダメなら私の家でも良いので、どうでしょうか」
「うん、分かった。 セツナちゃんの部屋に行くよ。 それにしてもセツナちゃんはせーくんにも彼女ちゃんにも本当に慕われてるんだねぇ。なんか当時のまだ賑やかだったころの生徒会を思い出すよ。 セツナちゃんがいつも一人で突っ走って皆をグイグイ引っ張ってって、それで私がいつも宥めたり怒ったりフォローしたりして、そんな私たちに後輩の子達は楽しそうに一緒に頑張ってくれて、なんか良かった頃の生徒会を思い出すよ」
『本当に何から何まですみません・・・』
その後、ウチに来てもらう日程の調整をして、ねーちゃんの近況なんかを簡単に説明したりしてから解散した。
ユキさんには、翌週の土曜日に来てもらうことになった。
『キヨカ、付いて来てくれてありがとな。俺だけだったら気が回らないこととかあったし、本当に助かったよ』
「いえいえ~、嫁の務めですよ。内助の功ってやつですねぇ、うふふ」
『そうだなぁ、出来た嫁だよキヨカは』
「!? い、いま、嫁って言いました!?」
『さぁ?』
「言いました言いました! うう、もう一回言ってください!スマホで録音しますので! 目覚ましアラーム用にします!」
『ヤダよ恥ずかしい。それよりもさっさと帰ろうぜ。 ねーちゃんが心配してるだろうし』
「じゃあ帰ってから録音しましょう!」
『だから恥ずかしいからヤダって言ってるの!』
「だったら私のも録音していいので! ”ア・ナ・タ♡”って呼びますよ! それとも”お帰りなさいませ、旦那さま♡”のが良いですか?」
『どっちも要りません!』
帰ってからねーちゃんに報告して、その後キヨカにしつこく録音せがまれて、「出来た嫁だよ、ぷヨカは」とか「出来たぷよだよ、キヨカは」と言い続けたらスネちゃったので、またいっぱいキスして機嫌を直してもらった。
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