第4話

評定が終わった後29人の伊豆衆と富永直勝を別の部屋に呼び、これからのことを話し合うことにする。


「それでは改めてこれからよろしく頼む。北条松千代丸だ。まだまだ若輩で皆から学ぶことばかりだが精進する。」


「これからよろしくお願いいたしまする。今回金山を見つけていただいた土肥を治めております富永直勝でございます。この身御身の為に。」


「うむ、父からの信頼厚い直勝がついてくれるのは嬉しいぞ。期待している。」


しっかりと相手を知っていることを伝える。


「そちらはご先祖の早雲様から韮山を中心に伊豆を任された伊豆衆の者達だな。其方は伊豆北郡を纏める笠原綱信だな。お祖父様から話は聞いておるぞ!そしてそちらが伊豆奥郡を纏める清水康英だな!会えて嬉しいぞ!」


その後も伊豆衆の一人一人に声をかけていく。相手を知っていると言うだけで印象は良くなるし、詳しく知っている事は大事だ。


「さて、顔合わせをするだけが目的ではない。これから私がやりたい事を説明する為に集まってもらった。」


雰囲気がキリッと変わる。伊豆衆は基本的に早雲様と氏綱様に従う"国人"である。伊豆衆は各地を治めて兵をまとめ北条に仕えている形だ。といっても飛び地を治めてもらっているのだが。こうすることで北条家は地元と武士の繋がりを弱めている。元々我らはこちらに土着した大名ではないため、民を他家よりも重んじて、土着との繋がりを希薄にさせようとしているのだ。


「父上からある程度好きに変化や試験をしていいと言われておる。というのもここにいる面々は長く伊豆各地を治めて、民からの信頼を勝ち得ているから変化を加えても上手く対処してくれると信じているからだ。」


こうやって煽てて断りづらくする。


「さて、まずはだが目安箱の設置と伝馬制の導入。それに新たな検地だ。検地に関しては代替わりの時にやっている為に皆も慣れていると思うが、今回は伊豆で使う枡を統一する。これによって不正を無くす。我らの取得できる米の量は減るかもしれぬが、我らの志である"全ては民のために"に通ずる大切なものだ。」


枡の統一については簡単に理解が得られたようで皆が頷いている。


「目安箱というのは各村に村民が自由に意見を投じられる箱を置く。そこに紙や何かで意見を投じて実際に我が見て裁決を下す。といっても何でもかんでも言うことを聞く訳ではない。民のためになり、我らのためにもなる事しかやらないし、するにしても幻庵の相談を受けてからする。目安箱に不正をしないために兵士を2人交代制でつける。これには直訴も認める。」


「直訴も認められるのですか!?流石にそれは僭越では?」


笠原が驚いて聞いてくる。


「だが、そうしなければ民の本音は聞けないぞ。先ほども告げたが、直訴を受けたとしても実際に対処するかどうかは別の問題だ。どちらかというと直訴もできるという状況を用意するのが目的だな。」


なるほど、と一応は納得したみたいだ。どれも史実で氏康が行ったことである。受け入れさせることも出来ずにどうする。


「次に伝馬制だが、これはわかりやすいと思う。各宿場町や村に伝達兵専用の厩舎を設置し、馬を乗り捨てて交換することで迅速な連絡を可能にする。馬は2.3頭用意すればいい。そうすることで馬の頭数も増え、いざと言うときの召集にも数を揃えやすくなる。」


戦に関する事は分かりやすいのか、すぐにでもやろうとみんな和気藹々としている。


「では今伝えた3つの事は皆様も帰ったら取り掛かってもらう。ある程度形になったものから連絡をよこしてくれ。目安箱は1週、伝馬制は一月、検地は1年を目安に進めてほしい。」


「「「はっ!!!」」」


「うむ、頼もしいぞ。では次に、すぐに取り掛かるのは難しい事で相談がある。いいか?」


「勿論でございます。」


富永直勝が代表して応える。


「やりたい事は主に3つ。皆に関わるのは後になるが、八幡様にいただいた知識で農業をより良くする方法を模索する。それで結果が出たら皆も実践することをここで誓ってほしい。2つ目は職人町の連中を連れて民のために役立つものを作る。それの普及に協力してほしい事。3つめは道を整えたいと思う。」


「道でございますか?もし、敵に使われた場合大変なことになりまするぞ???」


「勿論それは分かっているが、先ほど説明した伝馬制。これがあれば敵よりも迅速な行動が可能になり、戦力の集結もしやすくなる。その利点を考えれば敵に使われる事なく、我らだけで利用できるのではないか?それに、道が整えば遠くから商人がやってきて我らの国が潤う。そこに合わせてだが、楽市楽座と関所での徴税の撤廃もしたい。」


「それは認められませぬぞ!!!」


清水が強く反対し周りの大部分も強く頷く。


「まあ、待て。まずは説明を聞け。皆は商人との繋がりが大切なのは分かるな?そして商人達が齎す利も分かるであろう?」


皆が頷く。


「周りが関所だらけの中、関所がない地域があれば商人はどう思う?移動するだけでかかる関銭が無くなるのだ。自由に商売ができるから集まるであろう?そして、そこで商売が栄える。そうすれば我らに入ってくる銭は増えるのだ。」


「とおっしゃられても、関所を使わずにどうやって銭を徴収するのですか?」


「そこで楽市楽座だ。我らが決めた城下町でのみ座の制限を受けずに商売をできるように許可する。許可した者には免状を渡す。その時に持ってきている積荷を改める。その後にその日の売り上げを改めて銭の増減を確認する。そしてその儲けから4割を税として我らが頂く。」


「なるほど、商人が商売をすればするほど我らの利が大きくなる。関所の徴税撤廃で、人が集まりやすい状況であれば尚更。そして座の占有を撤廃する事で様々な品の利益が入ってくると。」


「そうだ。そしてここでも道が効いてくる。道が良ければ商人達は移動がしやすくなり、より利益に繋がる。それに、皆も知っておろうが、利があれば商人達は他国の情報をくれる。その情報でどこが何をしようとしているか、例えば駿河で米を買い集めていれば今川が戦の準備をしていると分かるのだ。」


まとめ役二人と富永は理解できているようだが、他は訝しそうな顔をしている。


「と言っても、まずは道を作る所からだな。それに商人達にも流布しなければいけないしな。今の内容が理解できている3人は他の者達にわかりやすく説明してやってくれるか。それでも分からない場合は私にもう一度聞きに来てくれ。分かるまで説明しよう。」


「はっ!」

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