第6話

『は…?』


 は、はああああああああああああああああああああ!!!!????


「ほ、本当ですか田所くん!?」


「ああ、さっきまでは恥ずかしくて言い出せなかったんだ。でも、必死な君の姿を見て覚悟を決めたよ…ラブカイザーを名乗る覚悟を、ね」


 なにいってんだアイツ!?

 ラブカイザーはこの僕だぞ!?

 お前は成績がいいだけの、ただのギャルゲー好きなオタクじゃねーか!

 そもそも中二病じゃなかったはずだ!そんなお前が、なんでいきなりラブカイザーを…


「はっ…!?」


 その時、僕の脳内に電流が走る。田所の恐ろしい企みに気づいてしまったのだ。


(ま、まさかアイツ…本物のラブカイザーが名乗り出ないと思って、自分がラブカイザーに成り代わるつもりなのか!?)


 おそらく田所はラブカイザーが自ら名乗り出てこないと読んだのだ。

 事実、本物である僕はこの先に待ち受ける困難を想像し、尻込みしてしまった。

 その隙をついて自分がラブカイザーを名乗り、本物に代わって渡来さんの彼氏の座につく。

 それがやつの思い付いた計画なんだ…!


(田所…なんて恐ろしいやつなんだ…)


 頬を一筋の汗が伝う。

 躊躇していたのは確かだが、そこに考えが至ったということは、やつも当然ラブカイザーになるリスクにも気付いたはず。

 だが田所は、これから先永遠に学校でラブカイザーと呼ばれるリスクより、学校一の美少女と付き合うリターンを選んだのだ。

 並の人間ができる芸当じゃない。野郎、頭のネジが外れてやがる!


(この短時間で覚悟を決めてくるやつがいるとは…くそっ、やられた!)


 この決断力、時代が違えば英傑として名を馳せていたかもしれない。

 友人だと思っていた男の思わぬ才覚に歯噛みしてしまうも、事態は刻一刻と進んでいく。


「こんな格好悪い僕じゃ、ダメかな…?」


「いいえ、全然そんなことはありません!嬉しいです、田所…いいえ、ラブカイザーさん!」


「い、いや、そこは言い直さないで、普通に田所がいいんだけど…」


「ラブカイザーさんはラブカイザーさんですから!」


「…………あ、うん。そ、そだね…ラブカイザーだもんね…ハハ…」


 ヤ、ヤバイぞ!渡来さんは田所のことをラブカイザーとして認識しようとしている。

 このままじゃ、ラブカイザーと渡来さんの彼氏の座をやつに乗っ取られてしまう!



「………でも、田所くん。貴方は、本当にラブカイザー…」


「ちょっと待ったぁっ!!!」


 告白の流れを防ぐべく、咄嗟に立ち上がろうとした、その時だった。


「ソイツは偽物だ!ラブカイザーは田所じゃない!本物のラブカイザーはこの山田だぁっ!!!」


『!!!!!』


 な、なにィッ!?なに言ってんだコイツ!?


 僕はまだ名乗ってないのに、二人目のラブカイザーだと!?どうなってやがる!!??


「ラ、ラブカイザーが二人!?」「どういうこと!?」「意味わかんないんですけど!?」「偏差値70の頭脳を持ってしても理解不能!」「うわーん!助けて先生!!!」


 当たり前だが僕同様、女子も滅茶苦茶混乱している。

 そらそうだ。この状況についていけるやつがいるとしたら、ソイツは確実に頭がおかしい。

 ドサクサに紛れて女子中学生に抱きつかれ、鼻の下を伸ばす担任のだらしない横顔をスルーするくらいには、あまりにも異様な空間だった。




「え、ど、どういうことですか…?」


「田所のやつは自分が渡来さんと付き合いたいがために、自分をラブカイザーだなんて嘘をついているんだ!騙されるな渡来さん!」


 いや、山田もバリバリ嘘ついてるよ!?

 自信満々に言ってるけど、お前も騙す気満々じゃん!?

 そんなこと言える立場じゃまったくないよ!!??


「な、なにを言い出すんだ山田!?僕は本物だぞ!?」


「嘘をつくな!俺が本物のラブカイザーなんだからな!」


 渡来さんを挟んで、バチバチと睨み合う田所と山田。

 ちげーよお前ら!?僕だよ本物は!!

 お前らどっちも偽物だよ!ニセモン同士でなにやってんだ!?




「おい、お前ら何言ってんだ」




 ―――だが、混沌はまだ終わらない




「俺こそがラブカイザーだ!」「違う、俺だ!」「俺がラブカイザーだああああ!!!」



『えええええええええ!!!???』



 なんとラブカイザーを名乗る男子が、さらに続々と現れたのだ。


(コ、コイツら…!)


 山田の発言で気付いたな!今なら渡来さんの彼氏にワンチャンなれる可能性があることを!

 だが普通は羞恥心が邪魔をするはず。

 だというのに名乗り上げるとは、このクラスのやつらはまともじゃねぇ!


「お、俺も実はラブカイザーだったんだ!」


 便乗するように池も立ち上がるが、いいからお前は座っとけ。

 俺もって言ってる時点でダウトだし、常識人だってバレてるから。

 このイカれたバトルにはついてこれまい。



「増えるww増えるラブカイザーwwww量産型ラブカイザーwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


 ……うん、もはや何も言うまい。


 いっそ君だけは、そのままでいてほしい。

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