第4話

「俺は許せない…!ラブカイザーなんてクソみたいな名前を名乗って、こんな怪文書を送りつけるなんて…!お前のせいで、渡来さんは傷ついたんだぞ…!」


は?お前にカイザーのなにがわかるんだ。

人の苗字馬鹿にしてんのか?あ?

カイザーだぞカイザー。皇帝だ。偉いんだぞ。かっこいいだろうが。

池ごときが何言ってやがる。カイザーを馬鹿にするんじゃねぇ!!!

それを差し引いてもこっちは海入ってんだ。格が違うんだよ!!

名前の通り、お前を池に沈めてやろうか!!!!


渡来さんを傷つけられた怒りに震える池と、ネーミングセンスをディスられて静かにブチギレる僕。

一方的な一触即発状態の中、立ち上がってやつの首根っこに掴みかかろうとしたその時だった。


「池くん」


静かな声。

池の名前を、渡来さんが呼んだのだ。


「あ、渡来さん。大丈夫、俺がすぐにラブカイザーなんてやっつけて…」


「もう二度と私に話しかけないでください」


呼ばれて爽やかな笑顔を向ける池とは対照的に、その声は冷たかった。

聞いてるこっちが身震いするほどの冷気を纏った、絶対零度の宣言だった。


「へ…?」


言われた池は口をぽかんと空けて、何を言われたのかわからないという顔をしている。

そんな池をガン無視し、渡来さんは教卓から前のめりになってクラス中に聞こえるように話し出す。


「皆さん。聞いてください。この会議は、ラブカイザーさんを見つけたいがために時間を頂きました…ですが、それは断じて糾弾するためではありません」


え?そうなの?じゃあどゆこと?

これまたクラスの心がひとつになりながら、僕らは渡来さんの話に耳を傾けるのだが…


「私、こんな情熱的なお手紙を頂くのは初めてで…読んでいて、とても心に響きました。こんなにも想われていると思うと、涙まで出てきて…恥ずかしながら、一晩泣きはらしてしまった次第です」


そう言うと、渡来さんはポッと頬を赤らめた。


『え』


「いまではラブカイザーさんのことを想うと、胸が苦しくなるんです。どうしても直接本人にお会いしたい…そう思ってしまいました」


『えええええ』


「ですから、その…もしまだ心変わりをしていないのでしたら…ラブカイザーさん。私は貴方と、お付き合いするつもりです!」


『ええええええええええええええええええ!!!!????』


爆弾発言なんてもんじゃなかった。

僕らの叫びはクラスを超え、学校中に響き渡る絶叫と化す。


「ちょっ!?正気!?」「ラブカイザーだよ!?クソヤバセンスだよこの人!?」「うっそーん!」「人生捨てる気!?」「正気に戻れ渡来!?お前には未来があるんだぞ!?」


ラブカイザー、ひどい言われようである。

いや、気持ちはわかるけど。一致団結という言葉がこれほど似合う光景が、果たしてほかにあるだろうか。


「私は本気です!ラブカイザーさんと付き合います!!」


対して渡来さんも負けてはいない。

学校一の美少女の名を欲しいままにする彼女は忽然と、そしてキッパリと宣言していた。



(…………マジで?)


訳も分からず事の成り行きを見守っていたが、今の自分はきっとアホみたいな顔をしているに違いない。

なんせ渡来さんが付き合うと言い放ったラブカイザーとは、この僕のことなのだ。

脳が次第に現実を認識し始めるとともに、フツフツとテンションが上がっていく。


(マジで?マジでマジでマジで!!??)


え、なに?もしかして、告白成功ってこと!?

あれでイケたの!?ウッソだろオイ!!


(付き合える…!僕は、渡来さんと付き合えるんだ!)


長年の想い人と付き合えるんだ。ここで浮かれないでいつ浮かれろっていう話だろう。

渡来さんがラブカイザーの怪文書に感銘を受けるクソヤバセンスの持ち主であることは、ナチュラルにスルーした。


(ヒャホーーーーーーーウ!!!待ってて渡来さん、今君の想いに応えるからね!!!)


すっかり有頂天になった僕はさっきまでのことも忘れて、彼女の告白に応えようと、席を立ちかけたのだが……


「落ち着いて亜衣ちゃん!ラブカイザーと付き合ったら、彼氏がラブカイザーって呼ばれるようになるんだよ!?」


ピタリ


それを聞いた瞬間、体が勝手に制止した。

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