尊史-03

 東西に延びる幹線道路の両脇に、その躯体があった。


 片方は紅。陽光を浴びて、その塗装はより紅く。巨体にお似合いのバズーカラン

チャー、背部にはミサイルポッドとレーダーを取り付けている。

 もう一方は迷彩柄で、紅い方よりはスリムに見える。だが、兵器としての存在感

はやはり大きく、その手には人一人を粉みじんにできるであろう口径のライフルが

握られていた。こちらはミサイルポッドなどの装備ではないが、背部武装にチェー

ンガンが取り付けられている。やはりレーダーはついている機体だ。


 この2体は、傭兵が駆るFAV。2足歩行型の脚部を持つ、ということでは両方共通

だが、それぞれコンセプトが違っている。

 こういった個性が見られるのが、傭兵それぞれが持つFAVの特徴だ。


 ここに2体のFAVが並び立つ30分前の事だ。


「ご両名……いや、お三方、とした方がいいでしょうか?傭兵の皆様、今回はわが

社の……」

「前口上はいい。さっさと取り決めやら作戦概要の説明してくれ。」


 やや険のある言い方だ。マップを挟んで向こう側にいる男が言い放つ。


「奴さん方、もうじきこの辺を通り抜けるんだろ?なら説明をさっさとしてもらい

たい」


 同意を求める意味なのか、それとも、随伴がいることに不満だったのか良くわか

らない視線をこちらに投げかけてくる。まあ、こっちに専属オペがつくのを知らな

いのも無理はないか。


「……失礼しました。運び屋があと45分でこの街道を通過予定とのことです。戦力

FAVが1、高機動型AV4、高速巡行可能な装甲車1。本件の撃破目標です。」

「有難う。相手のFAVは?誰が請けたかわかるか?」


 戦力については事前予測に近い。FAVは相手によって2対1で相手しなければ、生

き残れないかもしれない。


「……トップランカーではないと思われます。おそらく、ルーキーか、それに準じ

る実力のものしか雇えてないかと。」


 一応、探る意味でアリーナ戦のカードを見たが、確かに、トップランクに在位し

ている連中の大半はシーズン締めの時期と相まって、ほとんどがアリーナ戦に出て

いる。つまり、とびぬけた実力者はそう来ないはず。


「雇えていない、と言ったな?根拠は?」


 根拠のない情報ほど死へ導くものはない。その点はもう一人の傭兵--トモキと

言ったか、そいつも情報の確度を知りたかったようだ。


「どうも、今回の運び屋への資金提供が打ち切られた様子です。こちらの動きを

悟られた、とも言えますが……そのうえで、何とか成功させたいが、資金力に乏し

く、実力を持つ傭兵への依頼できる余裕がなかったんでしょう。」


 これも予測できた。何しろ、ライズテック《企業》のやり方が苛烈なのだ。

一家を抹殺するなど、傭兵の身にあるものでも、冷酷無比と言いたくなるやり方だ。

いやが上にもばれるだろう。


「ま、なんにせよ、FAV2機も出張る必要無いんじゃない?」

 確かに、トモキの言う通りではあるのだが。


「……実は、今回運び出されるものが、高速巡行可能な車両と、それに付随する

オプションが厄介でして……」


 ここにきて、依頼内容に追加目標があると発覚するのである。


「パーツだけじゃなく、その高速車両も今回の目標になるとはね……」


 恵令奈が通信でぼやく。 


「あともう少しの調整でロールアウト直前だった新製品を、管理職とはいえ戦闘と

無縁の人間が武力で強奪するための操縦できる。そんな車両も作っていたとはな

あ……」


 依頼説明にはなかったが、まあ、戦力が追加されたところで、目標も変わらない。

トモキが割り込んでくる


オプション直掩機兵器の概要聞いただろ?機動力がある分、シティガードなら一個中隊をその直掩機一機で撃滅可能って……めんどくせえことになったなあ。」


 言い分は全く同意する。一度受けて、しかももう展開済みだ。もちろん、一定のペナルティを覚悟すれば放棄しても構わないが、ここまで聞いた話でも、完遂できない内容ではない、と判断した。

 それはトモキも同様だったので、こうして街道脇に俺たちの機体が並び立って

いるのだ。そんなぼやきを三者三様にしていたところに、報せが入る。


「レーダーに感。12時方向に目標部隊と思われる機体を確認。総数5!」

「出番だ。行くぞ、紅刃こうじん

『了解。戦闘システム起動。』


 ブーストをふかし、地面を削るように猛然と敵部隊へ向かう。

『12時方向に正体不明機3。AVです。IFF動作せず。敵性機と判断。最終ロック

解除。』


 FCSからのアナウンスを聞き、ミサイルシーカーを敵へ向ける。

 3機同時にロックした瞬間にトリガーを引く。発射煙が弧を描き、敵AVへ向かう。


 それぞれの弾頭は破裂し、一か所に命中させるのではなく、敵機のほぼ全身にその破片を浴びせかける。命中したうち、2機はその場で爆散し、残った一機は慣性でこちらへ向かってくるが、途中にあった道路のギャップに引っかかり、バランスを崩して転倒、そのままスライディングし、俺の機体とすれ違う形で後方に通り過ぎて行った。

 爆発音がしないところを見ると、どこかで止まってそのままになったか。


「おいおい、こっちにも残しておいてくれよ?」


 おどけた調子でトモキがこちらに話しかけてくる。向こうもすでに2機落としたようだ。残るはFAVと、目標の高速車両となるのだが、例の直掩機を展開し、いざこちらと相対しようとしていた。

 トモキと示し合わせたわけではないが、お互いが右腕武装の銃口を高速車両の方へ向けたとき、突然通信が入る。暗号化されていない、平文……フルオープンで「そいつ」は話しかけてきた。



「会いたかったぞ……紅いFAV」

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