第9話 コラボ1

 新衣装の発表に一つ目途が立って数日。

 いつもの日課になった配信を終えたところでDiscordからメッセージが届いた。

 「ん?」

 俺のDiscordを知っているのは五人いる。千鶴と康介以外に〈にゃん太〉先生とコラボをしたことがある二人のVtuberだ。

 今回メッセージが送られてきたのはそのVtuberの一人〈九重 たまも〉だ。

 〈九重 たまも〉は〈子月 なな〉と偶然にも一日違いでデビューしたVtuberだ。その縁もありチャンネル登録の少ないころにはよくコラボをしてお互い助け合って配信をしていた。

 しかし、最近では疎遠になって久しい。

 

 〈九重 たまも〉

 『今ちょっといいかの?』


 久しぶりのチャットが送られてきたが、この喋り方にはいまだに慣れない。

 本人曰く、キャラづくりの一環だという。

 〈九重 たまも〉は九尾の狐をモチーフにしたVtuberだ。狐耳を付けた金髪美少女ロリで鮮やかな朱色の着物を着ている。後ろでは九本の尻尾がゆらゆらと揺れている。

 そんな ”たまも” の一番の特徴は喋り方だ。

 俗にいう のじゃロリケモミミ娘 だ。いつも「のじゃ、のじゃ」語尾に付けて話している。リスナーには好評でチャンネル登録は ”なな” よりも多い70万人を超える。

 

 『久しぶり、どうしたの?』

 

 当然だが〈子月なな〉の正体を知らないため女の子口調でのやり取りになってくる。一年半も女の子言葉を使ってたら自然と使えるようになっている不思議。


 『久しぶりにコラボでもどうかと思うての』

 『おーいいね! いつ頃が良い?』

 『来週の土曜あたりはどうじゃろうか?』

 『来週土曜ね。 予定もないし大丈夫だよ!』

 『そうか! それではよろしく頼むのじゃ!』 

 『こちらこそ! めっちゃ楽しみ!』

 『妾もじゃ! 詳しくはまた連絡するのじゃ!』

 『了解!』


 ここぞとばかりに「のじゃ、のじゃ」言ってDiscordがオフラインになった。

 こうして来週の予定が決定した。


                  〇〇〇


 次の日の打ち合わせ。

 千鶴と康介の三人で新衣装と配信内容の打ち合わせを行う。千鶴がマネージャーになったことで定期的に進捗を確認の為に打ち合わせをすることになっていた。

 『新衣装の方は問題なく完成しそうだよ』

 『サンキュー、いつも悪いな』

 『趣味でもあるからね。実益も兼ねれてるから問題ないよ』

 『そうかい。 それはそれとして昨日〈九重 たまも〉からコラボ依頼があったぞ。スケジュール更新してるからチェックしといてくれ』

 昨日のやり取りについて共有しておく。

 『マジで! うわー、めっちゃ上がるわ! 神回確定じゃん! なにすんの?』

 『おいおい、マネージャーの仕事ちゃんとやってくれよ、お前の仕事は直近の新衣装だろ?』

 『そっちはちゃんとやってるし! それよりも内容は?』

 『まだ決まってない。今から決めていく感じ』

 ”たまも” からはいまだ新たな連絡は届いていない。

 『そうなんだ~。めっちゃ楽しみだわ』

 『お、おう。 実の兄貴の配信がそこまで楽しみか……』

 『いやー、相変わらずブラコンがすごいねwww』

 『ブラコンじゃないし! 兄貴と ”なな” は別の存在として認識してるから問題なし!』

 『相変わらずお前の考えてることはよくわかんねーわ』

 『バ美肉してる和樹が言えたことじゃないんじゃない?』

 『確かに!』

 どう考えても推しの正体が兄貴だと知っても推し続けてる千鶴の方がおかしいだろうとは結局声には出せなかった。

 『まぁいいや。とりあえずコラボが決まったからいつも以上にチェックよろしく頼む』

 コラボということとなればこちらがボロを出すと相手にまで迷惑をかけてしまう。

 『了解。 気をつけてね』

 『了解!』

 今後のスケジュールと進捗を確認したことで今回の打ち合わせはお開きとなった。

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