第4話 マネージャー2

 千鶴が〈子月なな〉のマネージャーに就任した日の晩。

 詳しい話は夜に康介を交えてDiscordで、ということになり解散ということになった。

 ということでDiscordのボイスチャット。

 『てことで千鶴がマネージャーに就任しました。はい、拍手!』

 康介から乾いた拍手が鳴る。

 『はーい、よろしくね千鶴ちゃん』

 『ん、よろ~』

 千鶴と康介の関係は俺と幼馴染なこともあり千鶴とも昔からよく遊んだりしていたためほとんど3兄弟みたいな感じだ。

 『まったく気を付けなよって忠告した直後にバレちゃうなんてね』

 『ホントだよな。勘弁して欲しいよまったく』

 『は? 兄貴の脇が甘すぎるだけでしょ』 

 『特定したろって発想がもう恐ろしいわ!』

 『うっさい、てかバ美肉しろし』 

 『普段からするか、馬鹿』 

 (コイツは隙あらばバ美肉させようとしてくるな)

 『あははっ、相変わらず仲いいね』

 『『仲良くない!』』

 『『かぶせんなし!』』

 ……

 『仲いいじゃんwww』 

 

                  〇〇〇

 

 一度仕切りなおして仕事の話だ。

 『てことで千鶴がマネージャーになったわけだけど、今のところ特に仕事らしい仕事はないな』 

 今まで俺と康介の二人でやって特にマネージャーの必要性を感じていなかったのだ。

 『そうだね。今のとこ案件とかもないしコラボの話も来てないしね。許可待ちのゲームについては完全に待ちの状況だしね』 

 『一応スケージュールはまとめて送っとくわ』 

 現状確定しているスケジュールをファイルにまとめて千鶴に送る

 『了解! ……マジで全然予定ないじゃんコレ』

 『確認したか?』 

 『うん、真っ白だけど……』

 今が11月の中旬で次に確定してるスケジュールが12月24日の[クリスマス衣装公開]くらいだ。

 『新衣装発表くらいだな』

 『あ、そのことで1つ報告。〈にゃん太〉先生から新衣装の3Dについて返信があったよ』

 千鶴にバレた時に話していた件だ。

 (確か俺がOK出して〈にゃん太〉先生にも確認してもらっていたんだっけ)

 『残念ながらNGだったよ。3Dで確認したらイメージと違ったらしくてデザインから修正入れるって』

 『マジか、俺的には完璧だったと思ったけどな』

 『クリエイターってのは一度違和感を持っちゃうとずっと喉に小骨が刺さったみたいに気になるからね』 

 『そうゆうもんなのか』 

 微妙に分かりにくいたとえを出しながらのフォローだった。同じクリエイターとして共感できることがあるのだろう。

 『〈にゃん太〉先生との連絡を千鶴ちゃんにお願いしようかなって思うんだけど』

 『了解! 任せて!』

 『おい! 大丈夫かよ』

 〈にゃん太〉先生との連絡はいつも康介が担当してくれていた。

 『大丈夫じゃない? そこまで礼儀にうるさい人でもないし、後で話は通しておくよ』

 『千鶴大丈夫か? 先生に失礼があって仕事降りられたら終わりだぞ』

 (正直めっちゃ心配なんだが)

 『兄貴うっさい! 大丈夫だし』

 『和樹心配しすぎでしょwww』

 『心配にもなるだろ』

 今になってリーマン時代の上司が口うるさく、あーだこーだと指示をしてきた気持ちが分かるとは思わなかった。

 (新人に仕事を任せるのがこんなに不安だったとはな)

 『まぁそうゆうことで千鶴ちゃんお願いね』

 『了解!』

 なんだかんだで〈にゃん太〉先生との連絡係は千鶴に決定した。


                  〇〇〇


 『ところで千鶴ちゃん〈子月なな〉の活動方針を共有しておきたいんだけど』

 『活動方針?』

 『そ、ただ和樹が一人で女の子しながらおしゃべりしたりゲームするだけじゃここまでの人気にはならなかったんだよ』

 その通りだ一応俺たちにも活動方針があってどんなキャラで実況するか考えて活動をしている。

 『そんなのあるんだ』 

 『うん、ただ清楚してるだけじゃダメだったんだよね』

 『そうなんだよなぁ。ずっと清楚してる時は全然登録者数伸びなかったからなぁ』

 最初の頃は常に清楚にすることを意識していた。登録者数伸びないし慣れないことをしてると疲れる。

 『へー、そうなんだ。リスナーとしてはなんか複雑なうら事情なんだけど』

 『これからは千鶴も運営側なんだから俺の配信見て気づいたことは指摘してもらわなきゃなんねーからな。知っとけ』

 『そうだね。今まで僕一人で見てたから千鶴ちゃんが入ってくれて助かるかな』

 『りょうかーい』

 『活動方針といってもそこまで小難しいことじゃないよ。意識してやることは一つだけかな』

 常に清楚してると駄目だった俺はいつだったかの実況でポロっと男言葉が出てしまった。「うっざ! ざけんなコラ!」と。するとコレが意外と受けた。

 『”なな” の声で男言葉を話すギャップが受けたんだね』

 『あー、確かに喋ってるかも』

 『男言葉を使いすぎても正体バレにつながっちまうから加減が難しいんだけどな』

 『そうだね。千鶴ちゃんも使いすぎてないかをチェックしてほしんだよね』

 こういうのは自分では気づけないものだ。人からチェックをしてもらえてるとボロも出にくくなる。あくまで意識の問題だ。

 『OK! 配信後に感想言えばいいの?』

 『僕は配信中でもラインしてるよ』

 『マナーモードにしてるから配信中に指摘してもらってかまわないぞ。ボロが出そうなときには早めに知らせてくれ』

 『了解。今度からチェックしとくわ』

 『おう、頼む。直近での配信は明日晩あるから』

 そんなこんなで〈子月なな〉にマネージャーがついた。

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