第5章 スクープは爆発物の様だった。

第1話 仮面夫婦の生活

 三島みしま真理沙まりさ、旧姓 矢戸部やとべ真理沙まりさ、30歳。

 現在は一応フリージャーナリスト。

 誰もが振り返るほどの美貌を持ち、隙の無いメイクがそれを際立たせて、ある程度年齢を重ねた現在でもそれは健在である。

 仕事ぶりは大胆かつ真面目で、一言で表現するとる女であった。

 紙面等で見えない裏の事情に執着しているところがあり、ある意味ジャーナリストは天職なのだと思わせる。

 大手商社の夫を持ち、結婚を機に新聞社を退職。

 退職理由は夫から家庭に入ってほしいと希望された為。

 現在夫とは別居中であり、夫との間に子供はいない。

 離婚をして自由になりたいと思っているが、夫が離婚に消極的な様である。

 夫と別居を機にジャーナリストになる事を決意して現在に至る。




「あたしと旦那あいつは、結婚した当時は上手くやってたのだけど、結婚して二年程すぎた頃から急にギクシャクしてきたのよね。」


 真理沙まりさは夫との関係を語りだした。


旦那あいつは早くから子供を望んでいたから、あたしは会社を辞めて専業主婦になった。」

「だけど妊娠の兆候は全く表れなかった。」

「結局、あんた達も知っての通りあたしには未だ子供が居ない。」

「子供を望んでいた旦那あいつとは、それが主な原因で仲は冷めて行った。」


 よくある話である。

 望んでいる子供が出来ず仲が冷めてしまう。

 俺も真里香まりかと別れる前は真里香まりかとの子供を望んでいた。

 子供の存在が俺の自尊心を保つ一つのになると信じ込んでいた。

 だが、俺と真里香まりかの間にも子供は出来ず、とある出来事を切っ掛けに俺達は・・・いや俺は真里香まりかに別れる提案をした。

 真里香まりかは俺の提案を聞いて冷静だった。

 真里香まりかは俺が別れる話をする事を予想していたのかもしれない。

 今になって思えば、俺は最低の行動をしたと後悔している。

 真里香まりかと再会したのは俺が28歳、真里香まりかは19歳の時である。

 そして、別れたのは俺が38歳、真里香まりかが29歳になる年の事・・・。

 俺は真里香まりかの女として魅力あふれる時間を十年近くも奪っていた。

 そして別れを切り出したのは俺だ。

 その事に対して繰り返し後悔している。

 そして俺はだと自己嫌悪に何度も陥った。

 真里香まりかが出て行った日の朝の出来事は今でも鮮明に覚えている。

 俺と真里香まりかは決して不仲では無かったと思う。

 だが、真理沙まりさは旦那とは不仲の様である。

 今の俺には真理沙まりさの心境は理解できない。


旦那あいつと不仲になってからは急展開だったのよ。」

旦那あいつは家を出て行くしね。」


 真理沙まりさの話に牧田まきたが反応した。


「おいおい、出て行くだけでご無沙汰無しかよ、無責任だな!?」


 牧田まきた真理沙まりさの話を聞いて真理沙まりさの旦那に呆れ果てている様だった。


「一応ね、旦那あいつの携帯には繋がるの。」

「あたしもね、最初はやり直す事を何度も提案したわ。」

「だけどその提案はあいつは拒否した。」

「同居してないのなら籍入れてても仕方ないから、離婚する提案もしたわ。」

「だけどそれも拒否された・・・。」


 真理沙まりさの話を聞いていた牧田まきたは声を荒げていた。


「何だよそれ!? やり直すのもダメ? 別れるのもダメ? 意味解んねーよ!」


 牧田まきたは本気で真理沙まりさの夫に対して怒りを覚えている様であった。


 その姿を見ていた真理沙まりさは少し驚いた表情をしたものの、すぐに元の表情に戻って話を続けた。


旦那あいつは大手の商社に勤めててね、あたしらの結婚の仲人をそこの役員にお願いしたのよ・・・。」

「だから離婚するとその役員の顔を潰すと考えている居るのではないかと思うのよね・・・。」

旦那あいつだって、あたしとの関係を考えたら、離婚したいと思ってるはずよ?」

「だけど見栄なんかはっちゃって、仲人を会社役員にお願いしたから離婚も出来ない。」

「まあ旦那あいつは出て行って帰って来ないし、別に女でも作っているんじゃない?」


 真理沙まりさは最後の言葉を告げた時笑っていた。

 その瞬間の真理沙まりさの気持ちはどんなものなのか俺には理解できない。

 その表情を見て牧田まきたは眉を落としていた。


「何なんだよ・・・旦那は好き勝手しているのに別れられないって・・・。」

「そうだよな、最初は好き合って結婚した結果こうなるって、想像も出来なかったよな・・・。」


 牧田まきた真理沙まりさに対して同情している。

 離婚歴のある牧田まきたの事だ、自分との境遇に重ねてしまったのかもしれない。


 だが、真理沙まりさは意外そうな顔つきをしていた。


「好き合っていたか・・・。」


 真理沙まりさは、はにかむ様な表情となり言葉を続けた。


「あたしは、旦那だんなの事、そんなに好きでは無かったかな・・・。」


 真理沙まりさの意外な言葉に、牧田まきたは即反応した。


「好きだったんじゃないのかよっ!」


「だってさ、旦那あいつに何度も何度もしつこく声かけられたし、あたしも三十路直前だったし、あたし付き合ってる人居なかったし、旦那あいつは金持ってたし・・・。」


「結局、金かよ!」

「そんなんで、決めるからこんな事になるんだよ!」


 牧田まきた真理沙まりさはいつもの様な口調と雰囲気に戻っていた。


「金かよって、どうせ何十年も連れ添ったら、気持ちは冷めるんだから無いよりある方がいいでしょ!?」


「確かに金は必要だが、それが人を好きになる理由じゃねえ!」


「別に付き合った相手が、偶々お金持ってたってだけ! 確かにそれは結婚する決定打となったけど・・・。」


「たまたまなんだな?」


「ええ、たまたまよ。」


 牧田まきたは呆れる顔をしながらため息をついていた。


「まあ・・・三島みしま・・いや・・・矢戸部やとべは嘘は付かないからな・・・。」


「そうそう、嘘つかないと誤魔化せない時は、あたしは黙ってるだけだし。」


「まあ、お前は昔から言いたい事は躊躇する事なく言ってたからな・・・それこそ嘘の必要ないくらいに・・・。」


「まあ、あたしが躊躇なく言ってるのはまきさんだけだけどね!」

「他の人には、いくらあたしでも多少は気を遣うわよ!」


 牧田まきたは憤慨していた。


「俺だけかよ!」

「ひでえ女だな!」

「せっかく、人がお前の結婚の同期が不純じゃないって認めてやってるってのに!」


 真理沙まりさも一歩も譲らずにいる。


「あら、ありがとう!」

「下品な頭で理解してくれて!」


 そして急に目を逸らして小声でつぶやいた。


「でも結婚の理由はやっぱ不純だったのかもね・・・。」


 その言葉を聞いた牧田は引くに引けなくなったのか更に声を荒ぶらせていた。

 そして、いつもの二人の関係に戻っていた・・・。


「だああああっ!」

「てめえら、うるせえ!」


 家主である、俺の叫びに二人共静かになった・・・。


「しかしな・・・どうやったら旦那は別れてくれるんだろうな?」


 俺は真理沙まりさの現状の打開策を相談する事にした。


「お互い情も無く、別居して居て子供もいない・・・。」

「別れる理由しか思いつかねーよ!」


 牧田まきたの言う通りだ、籍を入れている方がお互い無理な関係になってしまう。


「離婚せずに別れる方法ってないかな?」


 俺はバカな質問をした。


「そりゃー、確か相手が死ねば離婚せずに再婚も出来るな。」


 夫婦の死別は確かに籍からは消えない。

 離婚には相手の同意が必要でお互い同意すれば籍を抜くことが出来る。

 籍を抜くといっても戸籍には元の相手の名前は残っており、その名前の欄にバツを書かれてるだけだ、再婚したら更に相手の名前が追加される。

 いわゆる離婚経験者がバツイチと言われる言葉が生まれた理由である。

 日本では重婚は認められていない。

 そう考えると死別となり残された相手は、再婚は出来ないのか?

 そんな事はない、死別の場合は特別に再婚は出来る。

 まあこの場合も死別した者の名前は残るのだが、しかもバツは付かない。

 籍を抜くには本人の意思が絶対に必要だ。

 死者からはを聞くことは不可能なので、こういう処置が取られているのだろうか?


「もしかして・・・。」


 牧田まきたが急に真面目な顔つきになっていた。


「三島・・・お前の旦那、お前が死ぬのを待っているのかもな・・・。」


 大真面目にバカな話をする牧田まきた


 その言葉を聞いて、真理沙まりさの目付きは半目となった。


「バカですか・・・、まきさん・・・。」


 真理沙まりさは呆れかえっている・・・。

 俺も真理沙まりさ同様の心境だ・・・。


「そんなの待ってたら、旦那あいつはじいさんになるわ!」


 牧田まきたは一瞬驚いていたが、更に真面目な顔つきとなった。


「なら、三島・・・旦那に殺されるかもしれないな・・・。」


 本気で言ってるのだろうか?


「殺人じゃない! 会社自体に居られなくなるわ!」

「あのヘタレな旦那あいつがそんなことできないつーの!」


 馬鹿馬鹿しい会話であった。


 しかしこのくだらない会話がこの先、

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 杞憂に終わった・・・。

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