追悼36 静かなる初陣

財 津「じゃ、行きますか」


 財津の出陣宣言を受け、一行は綾小路の運転で豪華クルーザーを停泊させている横浜ベイサイドマリーナに向かった。


綾小路「さぁ、着きました。あれに乗り旭川に向かいます」

神宮寺「すげ~」

三 上「普段の私たちからは無縁の乗り物ね」

蜷 川「確かに」

財 津「さぁ、乗り込みますか」


 強者たちもこの時だけは、遠足気分の子供のように興奮を隠せないでいた。


綾小路「航行の申請は出しています。北海道までいくつかの港を経由して」

三 上「まどろっこしいことをせず、直通で行けばいいのに」

神宮寺「万が一の事を考え、怪しい行動は避けてるんですよね」

蜷 川「時間に制限があり訳ではありませんから、優雅なクルージングを装っていま

    す。宿泊施設もリゾートホテルに十日間の宿泊予定としております」

神宮寺「観光旅行だったらよかったのにね」

三 上「私にすれば豪華な里帰りよ。と強がってみました」

財 津「理沙も本音を言うんだ」

三 上「沈めたろか」

財 津「ほ~こわ。それより、この船の操縦は綾小路さんが」

綾小路「はい。と言いましても殆どは自動運転ですがね」

神宮寺「流石」

財 津「ターゲットの動きも自動運転並みかな」

綾小路「私たちの探偵の依頼が身元を伏せ、地元の有能な探偵を雇い、四六時中、動

    きを監視させています。行動パターン・交友関係、繋がりの濃度などを」

神宮寺「なら、自動運転だね」

財 津「助かるね~」

三 上「楽出来て、満足」

財 津「俺は仲間を信じているだけさ」

三 上「モノはいいようね」

蜷 川「まぁまぁ、おふたりとも。船旅は密室の旅、仲よく行きましょうよ」

神宮寺「それは大丈夫ですよ蜷川さん。ふたりの言い合いは仲のいい証ですから」

蜷 川「そうなんですか。やはり私は世間ずれしているのでしょうか」

神宮寺「いえ。このふたりが特殊なだけで気にしないでいいですよ」

財津・三上「私たち(俺たち)を変人扱いするな」

神宮寺「ねっ」

蜷 川「ふふふ、確かに」


 仲がいいのか悪いのか可笑しな一行の狩りへの旅が始まった。寄港先で食糧・燃料・メンテナンスを必要に応じて行うも、一行の誰もが監視カメラを警戒し、船から下船することはなかった。一行が横浜ベイサイドマリーナからクルージングを装い、大洗、宮古を経由し、苫小牧湾へ。謎の富豪が大株主の一人である函館のリゾートホテルに所有するキャンピングカーと自家用車とで旭川へと向かたのは、知床の観光船座礁事故の話題が世間を騒がせている頃だった。

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