酒呑む鬼は星を観る

比渡人

鬼の子は孤独を知る

はじまり、はじまり。


森の奥深く、人間は誰も寄り付かないそれはそれは幻のような深い森の中。

数多くの木々が茂っているというのに日の光が優しく降り注ぐ。

暖かい色の空間で一際存在感を放つ美丈夫が優しく赤ん坊を抱えている

その男は、飲兵衛なのか甘い酒気をまとっており人懐っこい顔で頬擦りをして赤ん坊に構う。

酒臭かったのか、無精髭が痛かったのか赤ん坊はケラケラと笑い

暖かい光にそのまま溶けてしまいそうな小さな手で男の顔を叩き、その美貌が崩れる。

いつまでも続きそう柔らかい空気、幻想的な空間は突然、黒く塗りつぶされる。


「...ん、んぁ?.....朝か。」


朧げな景色は徐々に鮮明さを取り戻していき見慣れた部屋の風景が目の前に広がる

すると、目の前の戸が開かれ、そこには人好きの顔をしている僧侶が立っていてこちらをみて声をかけてきた


「信道丸、もう朝だよ起きなさい」


「もう起きてるよ人好。」


「せめて"さん"をつけてくれないか、信道丸」


幾度となく繰り返しただろうやりとりを交わし

信道丸は寝床から起き上がった。

人好はそんな信道丸をみながら少し侘しい表情を浮かべた


「泣いているのかい、信道丸。」


「そんなわけ、ないだろ。」


人好の言葉に反論するも自分の頬が湿っていることに気がつき信道丸の言葉は力をなくす。


「また同じ夢を見ていたのかい」


「だったらなんだよ」


「どうもしないよ。もう朝食だ、信道丸、川で水を汲んできてくれ」


「わかったよ。」


信道丸は人好とすれ違い部屋を出るとそのまま寺を出て川へと向かった。

慣れた動作で川から水を汲みきた道を戻るそこま山の森の中

数多くの木々が茂っているというのに日の光が優しく降り注いでいた。

柔らかい陽の光を感じ、顔をあげると木漏れ日が暖かく包み込む

酒とは縁遠い場所のはずなのに信道丸は甘い酒の匂いを感じた。

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