第13話 誘拐と救出とブチ切れ
『俺はこのまま暴れ続けて囮になる! お前はカレン嬢ちゃんを助けに行け! 困ったら【
そう言い残しさらに派手に暴れ始めた暴走パンダ――ダディを置いて廃工房の地下に潜入した瑠夏。その姿は相変わらずのパンダコスチュームである。
(もぉー!! どうしてあたしがこんな目にぃ!? だけどカレンは大事な友達……! 今頃怖い思いをしているに違いないし、早く助けてあげないと……!)
先に建物に潜入していた
瑠夏は物陰に身を潜めながら、慎重に地下の奥へと足を進めていく。
「ギャハハハ! そんでよぉ〜――――」
(!!)
侵入を開始してから十分ほど。
予想していたより遥かに広い廃工房の地下奥から、男達の野卑た笑い声が瑠夏のパンダ耳に届いた。
瑠夏は自身の中に居るであろう娘パンダ――ルナのパンダ
《ルナ、あそこにカレンが居るの!?》
《そだよぉ〜♪ ミッションインパンダッシブルぅ〜♪》
《どっちかと言うとダイ・〇ードな気が……って、そうじゃなくて! 悪者は何人居たか分かる?》
《んーとぉ〜、いっぱい〜?》
《いっぱいって……! それじゃどうしたら……》
未だに地下の男達に侵入は気付かれていない。どうやら防音効果は確からしく、地下と地上は完全に遮断されているようだ。
しかし問題は、地下の通路が一本道なことであった。瑠夏は物陰から奥に続く通路を睨みながら、どうしたものかと思案を巡らせる。
(……そうだ! ルナに声が届くなら、もしかしたらダディにも……! 試す価値はあるかも!)
そしてふと
《(戦ってて昂っているからか、ルナよりもだいぶ感じ取りやすいね……! よし、繋がった!)ダディ! ダディ聞こえる!?》
《ぱんだぁああッ!!?? って、こりゃ瑠夏か!? 【
(やった! 上手くいった!!)
瑠夏の考えとは、今も囮の役をこなしているであろうダディの協力を得ることだった。
随分異世界慣れしてきたなぁ、と自分に呆れながらも瑠夏は状況をダディに伝え、その意見に頼る。
《ダディには地下室に続く扉を派手に壊して、中の人間を
《パンダフルだ瑠夏!! そうして手薄にしてからお嬢を助けるんだな!?》
《そうだよ! 大丈夫かな、ダディ?》
《おいおい、俺を誰だと思っていやがる?》
念話と共にダディの自信に溢れた感情が伝わってくる。それを感じ取り思わず笑いが込み上げてきたのを、瑠夏は慌てて口を押さえて息を殺す。
《ふふっ。それじゃあお願いねダディ! 怪我しないでね!》
《任せろ瑠夏! そっちこそ、無茶は良いが無理はすんなよ!!》
《それ一緒じゃない!?》
作戦は固まり、瑠夏は身を潜めたままで合図を待ち構えた。そして満を持して――――
「ぱんだぁあああああああああッッ!!!」
「うおッ!? なんだ、なんの騒ぎだ!?」
「上で何かあったのか!?」
凄まじい轟音と咆哮が地下に響き渡った。地下空間に反響する破壊音とダディの雄叫びに、瑠夏が窺っていた男達が驚き、慌て出す声が混ざる。
「まさか、もう領主にバレたのか!?」
「そんなわけねーだろ!? いくらなんでも早すぎる! おい、様子を見に行くぞ!!」
「だ、だけど娘は……!?」
「一人見張りに残せば充分だ! 失敗したら俺らだってヤベェんだからな!? 行くぞ!!」
「わ、分かったよ……!!」
手に手に武器を持ち、慌てた様子で走り出す男達。その数は、上でかなりの数を倒したにも関わらず十人以上居た。
ダディは大丈夫だろうか。自身の策が成功した安堵と同時、上階のダディの様子が心配になる瑠夏であったが、今は彼を信じて自分の成すべきことをするしかなかった。
(よし、これで見張りは一人だけになってるはず……!)
隠れ潜んだ自分の前をドヤドヤと通り過ぎる男達を見送って、瑠夏はそっと物陰から抜け出した。
(一人だけなら……ルナと合体したあたしのプロレ……【
瑠夏は意を決して通路の奥へと走り出した。カレンディア令嬢を助けるため、ダディが言った通りにここが腹の
走る瑠夏の目に奥に居る一人の男の姿が映った。その足元には横たわるカレンディア令嬢の姿も。
(ダディ、あたしに勇気を分けて……!)
今も地上で戦っているであろう騒音に背中を押されるように、瑠夏は一気に加速する。
「パンダァアアアアアアッ!!」
雄叫びを上げ、威風堂々と敵を打ち倒してきたダディのように。
気合いを込めた声を上げながら、瑠夏はカレンを見張っている悪漢へと突進した。
「な!? 侵入者!? って、なんだ痴女か……」
「誰が痴女だぁあああああッッ!!!」
「ぐぼはぁあああッ!!??」
加速した上で全力で跳躍。彼女が上げた声に気付いたがその格好を見て呆気に取られた男の隙を突いて、瑠夏はパンドロップキック……全体重を掛けたドロップキックを炸裂させた。
憐れな見張りの男は為す
華麗に着地した瑠夏はすぐさま横たわる少女に駆け寄り、状態の把握に務める。
「意識が無い……! どうしよう……って、そうだ、スマホで……!」
スマホを取り出し、カメラを起動して意識の無いカレンディア令嬢を撮影する。その画面には『人間族:カレンディア・フォン・アルチェマイド』と表示が現れている。
迷うことなくその表示をタップし、少女の状態を確認する瑠夏。
「良かった、眠らされてるだけみたい……! カレン! カレンあたしよ! 起きて!!」
「う、うぅ……」
身体を揺すり、覚醒を促す瑠夏。
それは無事功を奏したようで、カレンディア令嬢は呻くような声を上げた。
「カレン! 早く起きてここから逃げなきゃ!!」
「う……、おねえ……さま……? ここは……」
「良かった! あなた
「さらわれた……?」
カレンディア令嬢の目の焦点は徐々にハッキリとし、瑠夏の顔や状況も薄らと把握し始める。そしてようやく身体を起こしたといったところで、カレンディアの目に瑠夏の姿が鮮明に映り込んだ。
「お、お姉様……? そ、その格好は……一体……!?」
当然の疑問であった。なにしろ一緒に観光していた時と違い、今の瑠夏はパンダカラーのビキニスーツという出で立ちなのだから。
「い、いや……! 違うのよカレン!? これは、その……」
「――――ませんわ……ッ!」
「……へ? カレン……?(なに!? 寒気が……!?)」
ボソリと呟いたカレンディアに、不意に悪寒を感じた瑠夏。猛烈な嫌な予感を感じつつもその様子を見ていると、彼女はキッと鋭くした顔を上げた。
「許せませんわ許せませんわ許せませんわッ!! 悪漢共め、わたくしを
「え、ちょ!? カレン!?」
「万死に値しますわ!! お姉様を辱め……ではなく愛でて良いのはわたくしだけですわッ!!」
「カレンさん!!??」
激昂するカレンディア。その怒気に呼応するように、少女の周囲の空気が陽炎のように揺らめき、熱を帯び始める。
(なんかこれマズイかも!? 熱いしカレンなぜかキレてるし!?)
直感的に危険を察知した瑠夏は、カレンディアの様子を見ながらも大急ぎでダディに【
《おう、瑠夏か? コッチは片付いたぜ! お前の方は――――》
《ダディ!! 急いでそこから逃げてッ!!》
《パンダって?? オイ瑠夏、一体何が――――》
《いいから、早く逃げてぇええええええッ!!!》
必死の退避勧告を行う瑠夏。しかしそんな瑠夏の健闘も虚しく――――
「ぶち殺してやりますわよ悪漢共ぉおおおおおッ!!!」
「いやぁあああああああああああッッ!!??」
瑠夏の視界一杯に、轟音を上げる紅蓮の炎が映し出された――――
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