第38話 霊能者 中川梅子

 私が小4の時から、中川さんが私に注目していた、なんて話は、そういや、ゴールデンウィークの龍神村でも話していたっけ?そして、また今、こんなことを嬉しそうに言っちゃう、というのは、このひいおばあちゃんに言われた私の役に立つ、とか私を守る、とか、一見理不尽っぽい命令?が、中川さんにとって嬉しいことなんだろうな、っていうのはなんとなく分かる。いや、そのことを対象である私に言えてる、っていうことの方が嬉しいのかな?

 ひいおばあちゃんっていうのが、中川さんにとって大切なんだろう、てのもわかるし、尊敬しているんだろうってのもなんとなく分かる。中川さんが跡取りみたいなことを言ってるから、中川さんも霊能者ってやつなのかな?



 私は、霊能者とかっていうのと縁遠いって思っていた。ううん。そもそも霊能者のことを考えたことってなかったかな?ふつう、ないよね、そんなの。

 よくよく考えたら、前世の記憶があって、その力も使えそうって分かってるのに、霊能力の存在を信じてなかったってのも間抜けかもしれない。

 でもね、なんか遠いのよね、霊能者って。ほら、幽霊相手に拝んだりとか浄霊?とか、そんなイメージだけど、シオンって、今の感覚でいったら戦士、とか、そんな感じのイメージ。自衛隊っていうよりは傭兵?

 だからね、宗教家のイメージが強い霊能者と、荒くれ者の冒険者を同じ土俵に上げて考えられなかったってわけよ。

 だったら超能力者?

 それもなんか違う。

 言葉の響きのせいかもしれないけど、超能力者ってなんか無属性のみのイメージだから、属性ありきの前世の魔法とどうしても結びつかないんだな、これが。

 まぁ、さすがにゲームとか、ラノベとか、そんなのでみる冒険者、って、まんまイメージなんだけどね。そのせいで前世を思い出したともいうし・・・・

 それでも、ゲームとかラノベの勇者とかって、余裕あるよなとは思うけどね。自分の人生を振り返ると、チートとかざまぁとか、ハハ、縁遠かったなぁ・・・


 なんて考えているのは、ちょっとビビっちゃってるからの、現実逃避なんです。

 だって、リアル霊能者だよ。

 なんかお弟子さんもいっぱいいるらしい、こんなでっかいお屋敷に住むボスキャラみたいなもんでしょ?

 そんなひいおばぁちゃんに会おう、なんて、中川さんは気軽に言ってるけど、なんか怖くない?

 ひいおばあちゃんで、そんなすっごい霊能者ってことは、白い着物に袴かなんかで、真っ白い髪をヒモでくくってて、なんだったらはちまきスタイル?ろうそくか護摩の前でイヒヒヒヒとか言っちゃう?暗黒オーラビンビンで、何もかも見透かされちゃったりして・・・

 私のこと、女の子として見るのかな?それとも男として?

 いろいろ妄想しちゃって、なんか、その・・・・むずむずしちゃってます。


 「シッシッシッ。詩音ちゃんとずっと会いたがっていたし、行きましょう、ね?」

 中川さんがシッシッシと笑いながら立ちあがっちゃった。

 はぁ。

 ついていかない、なんてことはできないよね。いつの間にかおうちにお呼ばれしちゃってるし、寝かせて貰ったお礼とかも言わなきゃ、だよね?

 仕方ない、ついていきますか。



 ていうことで、ついていった先は、渡り廊下を渡った先でした。って、どんだけ広いの?

 日本家屋ってこともあるかもしれないけど、たどり着く前に、ああ、あの部屋だな、って分かったよ。だって、男女の笑い声と大きな声でのおしゃべりが廊下まで響いてきたんだもん。男の方はタツだね。関西弁丸出しだし。もう1つは女の人。たぶんひいおばぁちゃんって人だと思うんだけど、ちょっと想像とは違うかな?

 お年だし、霊能者だし、っていうんで、イメージでは地を這うようなハスキーボイスって思ってたんだけどね、なんていうか、張りがあるちょっと低めのあねさんボイス?あんまりおばあちゃんって感じのしない声だね。


 そんなことを思いながら部屋の前に到着。

 するかしないかの時に、私たちに気付いていたんだろうタツが

 「やっと来たな、まぁ入りぃ。」

って、声をかけてきた。

 中川さんは、シッシッシッて笑いながら、そのふすまを開けたけど、私が寝てたのと違ってこっちはふすまなんだね。

 「おじゃましまぁす。」

 そう言いながら中川さんは1歩部屋へ。そして振り返って、私を手招きする。

 フン、と気合いをいれた私は、おじゃましまぁす、と言いながら、部屋に入っていった。



 部屋の真ん中には、旅館にあるみたいな大きな机。

 そして、ふすまに背を向けて座っていたらしいタツが、座布団にあぐらで座っていて、後ろに手をついてのけぞるみたいにこっちを見てる。

 よっ、って、軽く私に手を上げて、まぁ座りぃや、なんて、ここの主みたいに手招きしているけど・・・


 強引に視界に入ってきたタツから目を離して、私は、タツと向かい合って座っている人に目を向けた。

 これが霊能者のひいおばあちゃん?

 一瞬、私、フリーズしたかも。


 私を見て、座っていたのに立ってくれたその人は・・・・


 身長は私と同じぐらいで小さいけど・・・

 イメージのようなモノトーンとはほど遠く。


 明るめの茶髪は肩ぐらいの長さでふんわりパーマ。

 どっちかって言うと、やり手の政治家か実業家のおばさん、って感じで。

 私のおばあちゃんと同じぐらいの年にしか見えない。

 ちょっと派手目の化粧に白襟の真っ赤なシフォンワンピース。


 これが霊能者?


 ただ、その目は、優しく私を見てはいても、なんだかすべて見通すような厳しさを湛えていて、ああこれが、霊能者中川梅子の本質なんだろう、と、背筋が伸びるのだった。

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