第19話 開発計画阻止計画(3)

 深夜1時。

 大騒ぎしていた姉や友人たちも、寝静まり。

 いや、この旅館全員が不可思議の神の御業みわざなるもののお陰で、寝静まっていた。

 建物を出て駐車場へ。

 そこにいたのは、番頭とタツ。


 「よぉ。こんな遅うに悪いなぁ。」

 ちっとも悪いと思っていない様子でタツが出迎える。

 「夜更かしはお肌に良くないんだからね。」

 「まだピチピチの10代が何言うとんねん。てか、そんなん気にするんて、やっぱり女の子なんやなぁ。」

 「うるさい!今時男でもお肌は気にするわ。てか、15年女の子として暮らしてきたのよ。ほぼ女子よほぼ女子。」

 ということにしておきたい、というところ。


 そもそも、こっちの世界みたいに女が弱い、なんて気持ちはほとんど持ったことがなかった。男言葉とか女言葉、というのも、今は日本語として翻訳して考えているが、そもそもなかった。今世で女として育って女として言葉を覚えたから、女としてのアイデンティティが高いかもしれない。


 前の世界では、男が女を守る、んじゃなくて、強い者が弱い者を守る、という感覚だったな、と、改めて考える。前世のことを考えると、自然と前世の思考にシフトして、男である自分が前に出てくる、といった感じか。


 Sランクの冒険者なんて、自分で言うのもナンだが、人類最強と保証されたようなもんだ。当然守る側として、自分も考えていたし、周りもそう思っていた。男、女、関係なく、だ。ただし、対価ありき、が常識。まぁ、対価は金銭でなくてもいいんだが。そんなわけで、自分自身を対価に投げ出そうとする女も星の数ほどいて、俺は女に苦手意識を持ったのかもしれない。


 いずれにしても、タツと話していると、最終は男が好きか女が好きか、なんて話に持っていかれてしまうけど、正直、どっちもない。

 前世では女に辟易していただけじゃなくて、男にも・・・なことが山ほどあった。幼い頃は、守ってやる、とか言って体を求められ、高ランカーになってからは守ってくれと体を差し出され・・・

 男も女も、どっちもそんな風に扱われたから、男女関係、というか男×男も、女×女も、どっちもお断りだ。


 「ハハハ。まだ詩音ちゃんはおぼこやさかいなぁ。」

 何がおかしいのか、そんな風にからかわれながら、番頭さんの運転する車で、麓の町の、どう見ても金持ちそうな、とある1軒家の前に連れてこられたんだ。


 「目標はこの家の主、我妻康彦、我妻建設の社長や。」

 「我妻建設?」

 「ああ、あの秘境の神社周辺を国から買いよった会社や。」

 「でも、正規に買ったんなら、どうしようもないよね。」

 「一応国のもん、ちゅうことになっとんねんけどな、昔からあの辺は龍神村の一角、ちゅうふうに考えられとってん。ほんでな、色々頼ってくる神やらあやかしらを、あちゃこちゃに住ませとってんけどな。龍神村の連中に管理も頼んだりしてな。まぁ、なんや。人間に追われてやってきたヤツらを匿っとるちゅうかんじやな。それを村の連中が手伝ってくれて、逆に儂では届かんかゆいところっちゅうか、繊細な施し、神威、なんかを司どっとる、ちゅう、人間と神との持ちつ持たれつ、な関係がずっとある、いうんやな。せやけどな、人間が勝手に土地やなんやを割り振ってもうてなぁ。なんやわからんうちに書類では、ここいらは国の土地っちゅうわけや。」

 「んー、まぁ、分からんでもないが・・・」

 「まぁ、別にこの人間の土地や、言うんやったらそれはそれでええねん。せやけどな、先におって、静かに暮らしてるもんの生活を脅かして欲しゅうないねん。」

 「ああ。」

 「で、あんたの出番、ちゅうことや。神やあやかしに徒なすもんには祟りが来る、これは常識やろ?」

 「そう、なの?」

 「そりゃそうや。そのために人間はぎょうさん神社やら仏閣やらを建てとんのや。せやからな、ここは神社やその敷地をいじったら祟るで、って、責任者に分からせたったらええねん。」

 なんというか・・・前時代的な、って、詩音としては思う。

 祟り、なんて、迷信、そういう風に育ったし・・・


 「ハハハ、迷信、ていうんは祟りに会ったことがないから言えんねんで。ええか、なんやかんや言うてなぁ、この我妻って奴はもともと村の子やってん。貧弱な子やったんやけどな、いじめられっ子ちゅうか。ほんでな、いじめられては、よう、あの神社まできて泣いとったらしい。土蜘蛛の姫が言うとったわ。」

 え?

 だったら、わざわざ開発なんか・・・それこそ姫がお願いすれば・・・


 「勘違いせんといてな。姫はあの子に姿を現したことはないんや。見とったちゅうだけやさかいな。」

 「ふうん。でも、話を聞く感じ、そんな無茶なことはしないようだけど。」

 「無茶はせえへん、かもな。そやけどな、一番の問題は洞窟。胎動の洞窟をあちこち手入れて、観光の目玉にするっちゅうんや。なんや説明会、ちゅうんを村でやってんて。そんときにそんな計画を言われたらしいわ。村長はじめ、村の有力者は反対してんけどな、目玉やさかい、そこは譲られへん、言うてなぁ。村長とかは土蜘蛛のことも知ってるけど、他は知らんし。あんなとこいじったら祟られるで、言うて今のところ反対してるけど、時間の問題やそうや。」

 「そこで祟り、というわけか。てか、本人に土蜘蛛のこと、話したら?」

 「あかんあかん。それこそ、化けもんおるで、って目玉にしよるわ。」

 「そうかなぁ。」

 「なんや色々言うてるけどな、あの子はこの村の人にマウント取りたいねん。小さい頃いじめられて、でも今は成功してなぁ。その成功が龍神村の知識っちゅうか、あちこち知られてない小さいほこらとか昔の井戸とか、そんなんをパワースポットちゅうて、発表して、観光ルートをつくってな。しょうもない開発しては、小さい眷属を散らしよった。その集大成が今回の土蜘蛛ってこっちゃ。」

 「今までは放置してたのか?」

 「いや、ちょこちょこ枕元に立ったりなぁ、いろいろしたんやけどな。工事を邪魔するのに雨降らしたりもしたなぁ。せやけど全部、パワースポットの証明や、言うて、ええように言うてきよる。」

 「だったら今回も・・・私ができることなんて、そんなにないし。」

 「いいや。あんたは、その魔法っちゅうんで、人殺しができるんやろ?」

 「え?」

 「人も殺せるだけの力を持っとる、ちゃうか?」

 違わない。

 違わないけど、何を言ってる?

 その社長ってのを、この俺に殺せと?

 この世界で、それは大罪だろ?

 いや、前の世界だって、同じ理由で殺してしまったら、こっちだって大罪人だ。

 意味がわからない。


 私は、俺は、訝しむ目をタツに向けた。



 

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