第6話 校内見学

 「あのさ、俺だったら余裕っしょ?詩音ちゃんのタメなら一肌も二肌も脱ぐよん。」

 入学式の翌日ということもあり、正規の授業はまだ。

 学校の校舎見学、という、今更な感じのイベント中。

 私たち内部組には慣れ親しんだ校舎だけど、外部組が1/3もいるから、特別教室とか更衣室とか、図書館、体育館なんてのを、班ごとに見学する、という新1年生恒例の企画なんだそう。


 一応、少人数で動いて外部組もうまく馴染んで貰おう、というのが趣旨の半分、だそう。まぁ、後の半分は、先生とか事務員の手間を省く、って話。

 1班6名。2名は外部組で、という指示で、後は自由に組め、なんていうのは、まぁ、自由な校風をうたうこの学校の、らしいところであり、教師側の怠慢でもある、と、俺なんかは思っている。

 だが、こういうのんびりとした企画でさえ、結構な刺激という、ゆるいこの世界が、俺としては、結構気に入ってはいるんだが。



 「さっきの野郎も、外部っしょ?あいつ入試の時から、マジ目立ちすぎなんよねぇ。ちょうどいいし、しめたろか?ヒヒヒ。」

 なんて、言ってるのは、立花隼人、だそうだ。


 誰が馴染むのの助けだ、って気がするけど、班決めの時、「はいはいはい!」とか言って挙手しながら、俺のところにやってきた。

 俺の横には、当然のように双子がいて、もう一人中川さん、ていう、一見陰キャなモデル体型のオタク。彼女は中学からの入学組で、多分、双子と仲が良い。

 多分、ていうのは、俺の知らないうちに、気がつくといつも側にいるようになっいたから。俺とあまり話したことはないけど、時折双子と耳元でささやき合って、イヒヒヒって笑ってる。「何?」て、はじめの頃は聞いていたけど、詩音にはまだ早い、と言って早3年、よく分からないけど、内緒にされたままだ。

 今となっては、女の子同士で楽しんでるんだろう、と、達観している。


 まぁ、この内部組4人は、いつものメンバーと言えばそのまんま。

 で、女子ばかりだし、女子の外部さん誘おうぜ、などと言ってたんだけど、急に、

 「おねがいします!」

 て、深々と頭を下げ、片手を前につきだしてきた男子がいた。

 それが、この立花隼人。

 「詩音さん、一目惚れっす。付き合ってくれとは言いません。せめて、そばで守らせてください。今朝の野郎には指一本触れさせません!」

 教室中に響くデカい声でそんな風に言うから、注目も甚だしい。

 もちろん、女子で回るからと断ろうとした私を押しのけ、

 「よく言った!詩音親衛隊の任に付す!ただし抜け駆けは禁止だ!」

 なんて、鬼軍曹よろしくナコがふざけて言ったもんだから、そのまま「ウィッス。」と答えて、居座ってしまった。

  結局、男子一人よりも、ということで、大々的に残1名男子を誘ったら、なんかじゃんけん大会が始まって、勝ち残った外部組の男子=結局まだ名前が聞けていない、と6人で回っているんだけど・・・


 なんか、色々面倒なことになってる気がする。


 「詩音ってさ、ちっこくてホワホワしてるでしょ?」

 嬉しそうに、私のことを立花と話す双子とニコニコそれを見ている中川さん。

 「うっす。」

 「本人知らないけど、男にも女にも人気あってさ。」

 「わかるっす。」

 「もう、私たちが見てなきゃ、ほんと、危険なの。」

 「そりゃそうでしょうとも。」

 「でさ、何がかわいい、って、この顔で、この声で、たまぁに俺ッ子になっちゃうんだよ。」

 「ウオーッ!俺ッ子キャラっすか。僕ッ娘越えじゃないっすか。いい、良いっす!!」

 何がヒットしたのか、胸元で拳をつくって、天井を仰ぐ立花。

 いっしょの某君も、彼の肩を右手で叩いて、左手で泣き真似をしている。

 いや、たまに心の中だけでシオンとしてつぶやいてるのがポロッと出てしまう俺も悪いんだが・・・


 そんな感じで、ワァワァ騒ぎながら歩くもんだから、人からの注目も甚だしい。

 勘弁してくれ、心の中でそうつぶやきつつ、小さい体をさらに小さくして、極力気配を消すも、なんだかんだと、小学校からこの学校にいるから、上も下も知り合いが多くて、恥ずかしい。



 「へぇ、あんさん、そんなに人気者でっか。」


 そんなふうに姦しくしていたら、俺たち同様、学校見学中であろう、今朝の男が現れた。名前、なんだっけ?


 「まぁ、ええわ。それよりこの後、付き合ってや、詩音はん。」

 「お前!お前はなんだ!詩音ちゃんに抜け駆けは、親衛隊が許さないぞ!」

 立花が、ずいっと前に入ってきて、言った。後ろで他のメンバーがそうだそうだ!と合いの手を入れている。

 いや、しかし、立花って思ったよりメンタル強いのな。

 どう考えても向こうが強いだろ?てか、それもわからんのか、この、脳天気な世界の人間は?


 「ほぉ、威勢の良い兄ちゃんやんか。言っとくけど、腕っ節やったら負けへんで。」

 「オ、オォー。だがな、男は愛のためになら、どれだけだって強くなれるんだ!なめんなよ、愛の戦士を!」

 「ハハハ、ええなぁ、ええわ。兄ちゃん。かっこええやんか!好きやで、そういう意味不明な自信。せやけどな、世の中、愛だけじゃどうしようもできんこともあるんやで。それを儂が教えたってもええんやけどな、どうする詩音はん。あんた次第や。」

 いや、今日会ったばっかりのお調子者だし、俺が口添えするってのも、とは、思う。だけどなぁ、身の程知らずとはいえ、自分のために前に立ってくれてる奴を犠牲にするのは、心情的になぁ・・・仕方ない、か。


 「立花君、悪いけど・・・」

 「へ?」

 「ひひひ、ヒーローさんよ。お姫様は部外者が口挟むなや、て、言ってんの、わからんか?」

 「え、そんな・・・」

 俺のことを見る立花に、申し訳ないと思いつつ、頷いた。


 「ちょっと、詩音、そんなこと言って、付き合うの、こんなやつと?」

 ナオが慌てて口を挟んできた。

 「えー、違うよ。付き合うって彼氏彼女とかじゃないよ、だよね?」

 私は、最後は奴を見て言った。

 「ちゃうちゃう。普通に話に付き合えってだけや。誰がこんな怪しい奴と男女の関係なんか・・・」

 「「「はぁ?」」」

 おっと、なんか、一緒に回ってた奴だけじゃなく、こっちを興味深く見ていた人達の何人かも、奴に向かって、ドスのきいた声を投げかけてる。

 「いやいやいや。いや、なんや、ほらな、そういう意味やなく、な、まぁ詩音は人気もんみたいやし?付き合うとかそんなフライング、っちゅうか、そんな相手やない、つうか、まぁそういうこっちゃ。じゃあ、詩音、あとでな。」

 そう言うと逃げるように、去って行った。

 てか、いつの間にか詩音とか、呼び捨てにしてるし、なんだ、あいつは。


 その後、みんなの物問いたげな目を愛想笑いで避けつつ、残りの見学を済ませたのだった。

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