第4話 見ている?

 どうして、こういう式って無駄に長いのかなぁ。

 詩音として幼稚園、小学校、中学校を出て、今日は高校入学式。

 どの学校の式も無駄に長いんだよね、なんて思いながら、私は目の前のステータス盤を触って(手で触らない。もちろん感覚で触る。他の人には見えないからそんな怪しい動きはダメでしょ?)、詩音からシオンへと置き換える。


 ズゥーン


 気圧が変わるのに似た押さえつけられるような感覚と共に、私の感覚はシオンのものに取って代わる。思い出した日から何度となくやってみてるから、なんだかこの感覚もすっかりなじみなんだけど・・・


 !


 俺は、すぐに詩音へと切り替えた。


 なんだ?


 あれは、さっきの感覚は、・・・知っている。

 そう、俺は、俺、シオンなら知っている。

 なんだ?

 シオンにはなじみの深い感覚だけど、この世界では初めて感じた。

 あれは・・・・


 あれは、索敵の魔法だ!


 索敵の魔法。

 そういう名があるわけじゃないんだが、ある程度の戦士なら皆がなんらかの形で常時展開している能力。もちろん俺もだ。

 俺の場合は、純然たる魔力を薄く広げて、この世界換算で常時200メートル、本気の索敵時だと3キロメートルぐらいの、魔力や敵意の痕跡を探ることが出来た。

 人によってその使う魔法も違えば、広さも違う。

 火魔法によって生命の熱を感知する者、水魔法により生命の水分を感知する者、空気の流れを読む風使い、等々、様々だが、何らかの方法で周囲を索敵する技術は、冒険者には必須の能力だ。

 これが、騎士だとかの集団戦エキスパートでは多少異なる。彼らは基本的には一部の能力に特化して鍛えるから、索敵は索敵のプロに任せるんだ。さすがにベリオクラスになれば、索敵も含め、剣も槍もそれなりの力を持っていたが・・・



 いずれにしても、それは前世の話。

 剣と魔法、そして魔物が跋扈するアレクシオンでの話。

 ここは日本。

 そりゃ、殺人やら暴力沙汰やらないわけじゃないけど、それこそ一地方の高校生が殺されたら、その日のうちに全国民が知るんじゃないか、ってぐらいにはレアな出来事。裏道に入れば、人が生き倒れていても、またか、誰か臭くなる前に処理してくんないかなぁ、などと眉をひそめるか完全無関心だったあの世界とは全然違う。

 まだこの世に産まれて出会ったことはないが、武道の達人ででもあれば、索敵なんかも普通にやってるんだろうか?

 そんな程度の感覚だったのだけれど・・・


 今、あきらかに索敵、いいや、探ると言うよりは、もっとトゲトゲして近寄って攻撃するなら反撃は辞さないぞ、とそんな風に宣言するように発せられたを、一瞬、シオンにと入れ替えた状態で感じたんだ。



 魔法を使う者がいる?

 あれだけの索敵をしているなら、一瞬だったとはいえ、気軽に無意識で広げた索敵の魔力が引っかかったんではないか、俺は、・・・私は、それが心配で、いつ入学式が終わったのかすら、気付いていなかった。




 「もう、ほんと詩音ってば、ぼぅっとしてるんたから。」

 「こっちよこっち。はぁ。でも私たち、同じクラスで良かったねぇ。ぼんやりさんの詩音は、一人じゃ教室にもたどり着かないんじゃない?」

 私の両手を引っ張っているのは、ナコとミコだ。

 気がつけば、入学式は終わり、私たちは新しいクラスへと移動していたようで・・・


 1年A組。


 ナコもミコも同じクラスなのは入学式が始まる前、校庭でクラスを確認したから、よく知ってる。

 まぁ、クラスが違っても、この学校だとあんまり関係ないんだけどね。

 一応、クラスはあって、HRホームルームとか、英数国の基礎的なのは、特に1年生では同じだけど、ほとんどは選択授業。

 なんでも生徒の自主性を重んじる、とかいって、高校から大学生みたいに自分でカリキュラムを組む形式。

 だから、なんだかんだで、仲良しの子供たちは同じカリキュラムを取る、という者も多い。

 逆に、この自由度を思いっきり自分のために生かす子もいる。他の科目は最低限に、自分の目指す将来のための授業で固める、なんて強者も、決して少数者ってわけじゃない。

 この学校はなんだかんだで、親がすごいって子も多いから、跡継ぎとか、同じ仕事につくために必死な子も多い。医者や弁護士、政治家に官僚。それぞれに必要な勉強は違うから、そこんとこよろしく、みたいな圧力もあったとかなかったとか。


 ちなみにうちの家は代々ほとんどがこの学校の出身だ。母は小学校から父は中学校からこの学校。母方の両親も出会いがこの学校だったらしい。父の方は親じゃなく従兄弟がこの学校で自分も入った、らしいけど。

 なお、蛇足ながら、先ほど入学生に在校生代表で舞台に立っていた生徒会長どのは、私の2つ上の姉、だったりする。

 まぁ、それは、私の腕を両方から引っ張っているおせっかいの双子も似たような感じで、小学校から知り合いのこの二人、親同士もそれなりの知り合いだったりして家族ぐるみの付き合いだ。

 だからといってどうってことはないんだが・・・

 私の心が女というよりも男に引っ張られているといったって、幼い頃からの知り合い、心が揺れるわけでもなく、しかし、19歳の生臭い世界で生きてきた身としては、10歳の女の子たちにどう接すれば良いのか、はじめの頃は相当戸惑ったものの、今となっては、気にしない、という解決方法を身につけていて・・・


 まぁ、1-Aのクラスに入って、黒板に張り出された席順を見たところで、2/3は見知った顔ぶれ、私が双子にわいわいと世話をされながら席に座らされるのを見たところで、ほとんどの者はいつもの光景、と、笑いかけてくる。そんな、あんまり中学生の頃とは変わらない、新たな日常が始まる、そうは思ったのだけれど・・・



 ドクン!


 俺の心臓が跳ね上がった。

 誰かが、俺を、見・て・・い・・・る・・・・?


 そのとき、ステイタス盤の表示がクルリとシオンへと入れ替わった。

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