第41話 【杏音視点】
悠と別れて自宅に帰ると芽杏がリビングで転がっていた。
随分とご機嫌そうだ。
「あ、お姉ちゃんおかえり!」
「ただいま。元気だけどどうしたの?」
「いやいや、成績が上がると嬉しいものなのですよ~」
「ふぅん」
ニヤニヤしながら気持ち悪い語尾で話す妹。
そんな姿にふと悠を重ねる。
なんだかんだ一緒に居る時間が長いせいで、性格が似てきているのかもしれない。
あんなのが家にもいると思うとゾッとするため、今後妹と悠を会わせるのはやめようかな。
でもそれは違うか。
悠と芽杏をくっつけようとしたのは私だ。
あまりに無責任だろう。
「お姉ちゃんは何してたの? 遅かったけど」
「……面談」
「なんの?」
「……なんでもいいでしょ」
芽杏に私が定期的にカウンセリングを受けていることは話していない。
本気で心配されると面倒だし、単純に恥ずかしいからだ。
その点悠に対して恥ずかしさはない。
会った初日にみっともない醜態を晒したのもあって、どうでもいいのだ。
それに彼とは気が合う。
あいつは変に私に気を遣ったりしないし、若干デリカシーに欠けるライン越えないじりもしてくる。
それがまた心地いい。
決して私はドMではないが。
「もうそろそろバレンタインね」
自分でも不思議な言葉が口から出る。
当然芽杏もハッと私を向いた。
「お姉ちゃんが、バレンタインの存在をご存じで!?」
「殴るよ」
「ほっぺツンツンしながら言わないで! 爪刺さって痛い」
気付いたら寝転がる妹に人差し指を突き刺していた。
それにしても柔らかい頬っぺただ。
なんでこうも可愛いのか。
ため息が漏れる。
「芽杏は今年誰かにあげるの?」
「んー、友達にはあげるよ」
「男の子にも?」
「どうしよっかな。そんな仲良い人いないし」
「……悠は?」
「無理無理。あいつは違う」
何が違うのだろうか。
私から見ればかなりのお似合いなんだけどな。
「あげたら悠喜ぶよ」
「お姉ちゃんがあげればいいでしょ」
「私が?」
「ほら、絶対喜ぶからさっ!」
芽杏の勘違い通り、悠が私の事を好きなら喜ぶかもしれない。
でも多分あげたとして、嫌味を言われるか揶揄われるだけだ。
そうわかっていてあげるほど、私は馬鹿じゃない。
でもどうだろう。
なんだかんだ悠には助けられてるし、たまには恩返し的なのもした方がいいのかもしれない。
いつもは突っぱねるような事ばかり言ってるし、たまにはね。
しかし、瞬時に悠のあほ面がちらつく。
そしてイラっとした。
「あげない」
「あはは。お姉ちゃんっぽい」
「私はいいから芽杏はあげたら? 友達なんでしょ?」
「うーん……」
私の言葉に妹は悩む。
「考えてみる」
「うん」
きっと喜ぶだろう。
そして、恋愛恐怖症が治るきっかけになるかもしれない。
私はまだ淡い期待を抱いているのだ。
悠が芽杏への恋心を思い出し、また芽杏も悠の事を異性として意識する展開に。
きっと悠はお節介だと思うんだろうけど。
「あ、チョコ作る時は呼んで」
「お姉ちゃんもチョコ作る!? 悠に渡すの?」
「そうじゃなくて。芽杏がキッチンを使うと荒れるから監視するの」
「……はいはい」
芽杏は心底面倒そうにうなずいた。
◇
バレンタインなんて意識するのはいつぶりだろうか。
確か中三の頃が最後か。
ということは二年前。
「モテない男子みたい」
二年もバレンタインに縁がないなんて、私の人生はなんなんだろう。
でも中三のバレンタインは思い返すと吐き気がしてくるな。
一生懸命彼のために作ったチョコだったけど、当時もあの人は他に彼女を持っていて、私のチョコなんてどこかに捨てた可能性もある。
そう考えると本当に嫌な気持ちだ。
「その点悠ならなんだかんだ美味しく食べてくれそう」
まぁ仮に悠にあげるとしても、市販品だ。
潔癖症に手作りチョコを渡すほど鬼ではない。
……魔女ではあるけど。
そして芽杏に後で、仮に悠に渡すとしても手作りは避けるように教えてあげないといけない。
しかしながら、バレンタインか。
久々に参加してみると刺激が得られるかもしれない。
そう思いつつ、私は服を脱いで布団にダイブするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます