本屋

金曜日はサボりの日。

そう決めたのは、いつのころからだっただろう。


「いやぁ~、遊んだ、遊んだ」


高校からの下校ルートを少し外れた場所にあるショッピングモールの北の端。

ゲームセンターと書店が並んでいるゾーン。

その書店側で立ち読みをする僕に、サボリ仲間のアユミが声をかけてきた。


店内の時計に目をやると、20時を少し過ぎたころだった。


「お疲れ。今日はよく取れた?」


「んにゃ、あんましぃ。今日のアームはいまいちだった」


と言いながら彼女がヒラヒラと振る手には、キットカットがつままれていた。

ほい、きぃちゃんにおみやげぇ。と差し出されたそれを受け取りつつ、半分ほどまで読みかけていた本を閉じる。


僕が本屋で立ち読みをするように、プライズゲームだけをただひたすらにぶっ続け3時間を遊び倒す。

それが彼女のサボリ道なのであった。


「その本、面白かった?」


「んー、正直そんなに」


そう答えつつ、手に持っていた文庫本の表紙を眺める。

これ見よがしに平積みされている、何を表しているかわからないサイケな表紙が目に止まり読み始めたはいいが、

あまり馴染みのない文体ゆえ、深く入り込めなかった。


「そいえばさぁ、小学生の頃、朝読書ってあったじゃん?」


「あぁ、あったね。僕のトコは中学まであった」


「あんときさぁ、なんか気になる子の本を盗み見て、おんなじ本買って読んだりとかしたよねぇ?」


「え、なにそれ。ストーカーの自供? そんなあるあるネタみたいに言われましても」


「えぇ? やらんかった?」


「やらんなあ。というか、小学生でしょ? 異性向けの児童文学って、そこそこ買いづらいじゃんか」


「いやいや、いうて文字ばっかだし、カバーかけたら余裕っしょ」


「カバーかけていいんだ」


「え、よくない? ダメ? まだハードル高い?」


「いや、てっきり何かこう、そういうナチュラルな出会いテク的な奴かと。カバーかけたら何読んでるのか伝わらないから意味なくない?」


「えぇ、かしこ~。そんなん小学生のときよぅ考えんかったわ」


「ん? じゃあ何目的で読むわけ?」


「んん~、何だろ? なんとなくそんな気分になるんだけど」


「なるほど、わからん」


と、延々と続きそうな歩の雑談に一区切りをつけ、

手に持った文庫本を買うべくレジへと一歩踏み出す。


「あれ? 結局それ買うの?」


「え、うん。なんか半分も読んじゃって悪いし」


それに、なんだかんだ半分は読めたんだから、まぁ買っても損はないだろう。

文庫本だし、そう高いわけでもない。

そう思うと、この何を表しているかわからない表紙も、なんだかカワイイ気がしてくる。


そんなワケだから、ちょっとお会計してくるから待ってて。

というセリフが僕の声帯から出るより先に、歩が隣に並んで言う。


「じゃぁ、私も買おっかな?」


「……カバーかけてもらうわ」

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