第15話 エプロン姿 

 一か月ぶりの再開にしっかり抱き合うふたりには、なにも語る言葉の必要は無く、出るのは只々涙だけで、その涙の量がこんなにも長かった逢えない時間の長さを表していた。

 長かった空白を埋めるように、ふたりは、暗闇に落とした何かを手探りで捜すように、手と口はもちろん体の全てを使い互いの体の隅々まで確認し、深い愛のよろこびを全身で感じるまでその動きはいつまでも、いつまでも止まらなかった。


 「俺にはこんな優しい妻がいる、なのに菊池愛子の幻想に狂っていた、俺は何て馬鹿なヤツなんだ」翌朝、由紀子のエプロンの後ろ姿を見ながら、由紀子には贖罪の気持ちで全てを話そうと思った。


 「橋本は全部知っているから、会社との関係については安心して」と先ずいってから「橋本から何か預かってない?」

 「うん今日、郵便が届いたの、これ」

 「中は調べてみた?」

「ううん」と首を横に振り「怖いから見ていない」といい封筒を出した。

紺野が封筒を開くと中には由紀子宛の手紙と、5ミリほどの現金が入っていた。

 由紀子宛の手紙には、自分が紺野に命令したことを詫びる言葉が書かれていた、

例の文字で。

現金を見た由紀子は「あなた、何か悪いことをしたの?」といい、また泣き崩れた。

紺野は由紀子が落ち着くのを待ち、少しずつ事情を話した。


「俺はこの一か月間毎日、由紀子にどう説明しようかと考え悩んでいた。

 本当のことを電話で一気に話してしまえば、問題はもっと早く収まっていたかも知れない、だけど勇気がなかった、許してくれ」


 「どんなことでも私は聞く」由紀子の声に紺野は全てを打ち明ける覚悟をした。

 これまでのことを、自分自身に聞かせる反省の言葉のように話し出した。

 しかし、菊池愛子に対する自分の気持ちの部分は曖昧にした。


 トさんとの暮らしについては話すことができなかった。

 由紀子のためにはそれがいいと思ってのことであったが、罪悪感を払拭することはできなかった。

 狩野と原島にはいずれ話そうと思っていた。

 あのふたりなら分かってくれる筈だから。










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