第17話 慢心


 僕はまた、シロさんとダンジョンに潜る約束を取り付けた。

 それだけじゃない、今日のぼくは一味違う。

 そう、冒険者ランクCになったんだ。


 一般に、Dまでのランクは下級冒険者と呼ばれている。

 でも、Cからは上級。

 つまりは、ギルドから一人前の冒険者として認められたということだ。


「あらためて、おめでとうだねゼンくん」

「ありがとうございます! これもシロさんのおかげです!」


 僕もC級になったからには、これまでみたいなサポートだけじゃなく。

 実際にシロさんの横に並んで、積極的に戦っていきたい。

 そういう思いで、僕は意気込んでいた。


「じゃあ、さっそくダンジョンにいこうか」

「はい! シロさん!」





 ――ズシャァ……!


「すごいねゼンくん! 見違えるほどだよ!」


「本当ですか……!」


 道中、僕は積極的にモンスターを倒していく。

 得意のサイドステップで、華麗にモンスターへ距離を詰め。

 シロさんから教わった剣術で、ばっさばっさと斬っていく。


「まさかゼンくんが短期間でここまで成長するなんてね」

「いやあ……あはは」


 それは僕も驚きだ。

 全部シロさんのおかげといってもいい。

 人っていうのは、環境や適性で、こうも変わるんだなぁと。


「安心して背中を預けられるよ」

「シロさん……」


 あのシロさんにそこまで言ってもらえるようになるなんて。

 僕は今までにない幸福感と満足感を覚えた。

 あこがれの人に、認めてもらえた。

 まだまだシロさんには遠いけど、ようやくすこし……。

 隣に立てたとは言えないけど、少し後ろからついていくくらいにはなれたのかな。

 感慨深い。


「もう実力だけなら、Bランクほどといってもいいんじゃないかな?」

「えぇ!? ほんとですか……?」


 僕はおだてられて、いい気になってしまう。

 あとから思えば、この時の僕は完全に調子に乗っていたんだと思う。


「次の昇格試験がたのしみだね」

「そうですねぇ……」


 そうだ、ここらで少し、シロさんにもっといいところを見せよう!

 今の僕になら、中ボスくらいなら倒せるかもしれない!





 おあつらえ向きに、ちょうどいいモンスターが現れた。

 トレントだ。

 木の魔物。

 見た目は完全にただの木なんだけど、枝を触手のようにうねうね使ってくる。


「ゼンくん……気を付けて……! こいつは強敵だよ! しかも、ただのトレントじゃない。マジックトレントだ……!」


 たしか、魔法を得意とするモンスターだったはずだ。

 近づけば触手にからめとられるし、遠ざかれば魔法攻撃で痛い目をみる。

 そういう、やっかいな魔物。


「大丈夫ですシロさん! 僕にまかせてください!」


 僕は調子にのって前へでた。

 だって、僕はもうC級冒険者。

 一人前の、冒険者なんだ。

 いつまでもシロさんの後ろで守られているわけにはいかない。

 僕だって、シロさんの役に立てるって、証明したいんだ!


「うおおおおおおおお!」


 シロさんが戦いやすいように、僕が先に前へ出て、トレントの枝を斬る……!

 そういう作戦のつもりだった。

 しかし……。


「ゼンくん……!? ちょっとまって……! 危ない……!」

「大丈夫ですよ! 僕なら……!」


 そう、このとき僕は――完全に油断していたのだ。

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