第15話 襲撃


 僕はガイアを倒し、無事にDランクからCランク冒険者になれた!

 順風満帆、言うことなし!

 という感じだった……。

 だが、それをどうにも許せない人物もいたようで。


「おいゼン、なにヘラヘラ浮かれてんだよ……!」

「ひぃ……!? き、きみは……!?」


 そう言って、僕の前に現れたのはダンだった。

 ガイアの友人で、僕を崖に突き落とした超本人。

 たしかシロさんたちとの話し合いの途中に、出ていってしまったんだっけ……。


 ダンはボロボロに汚れた衣服で、僕の前に現れた。

 ちょうど、夜道を歩いているときだった。

 ぐったり疲れたようすで、まるで浮浪者のような見た目をしていた。


「ど、どうしたんだ……!?」


 僕は驚いて尋ねた。

 まさか……報復でもしにきたのかな……?

 でも、報復をするならそれは僕の方だ。

 彼は自業自得、ただ悪いことをして、罰を受けた。

 それだけだ。


「どうしたもこうしたもねえよ! てめえのせいでこっちは住むところも失ったんだ……!」

「えぇ……?」


 僕のせい……?

 どうしたらそういう解釈になるんだろうか……。

 彼は僕を直接突き落とし、さらにその罪を償わずに逃げたということで、ギルドや裁判所からこっぴどく怒られたそうだ。

 リィンさんによると、住む場所も追い出され、抵抗したせいで冒険者資格もはく奪になったとか。


「ちょっと、僕のせいって……それはいくらなんでもおかしくないかな? 僕を殺そうとしたのはそっちなんだし……」

「うるせえ! てめえが戻ってこなけりゃ、すべて上手くいってたんだよ! てめえなんて死んでればいいんだ! うおおおおおお!」


 ダンはそう言って、僕に襲い掛かって来た。

 彼にはもう失うものもないだろうから、必死なんだね……。

 それにしても見苦しい。

 人間とはこうも落ちぶれるものなのか……。


「えい!」


 僕はガイアにもやったように、剣でダンの頭を殴った。

 もちろん、剣先でやると危ないから、剣の持ち手部分をつかった。


「う……いてえ。そんな攻撃、きくかよ!」

「え……!?」


 しかし、さすがはタンク職のダンだ。

 軟な戦士のガイアと違って、ちょっとやそっとじゃ倒れない。

 ダンはそれでも僕に向かってきた。

 突進で僕を壁にぶち当てる気だ!


「うおおおおおおお!」

「っく……!」


 僕はなんとか彼の攻撃をよけ続ける。


「へっへっへ……追い詰めたぞ……」


 しかし、そうこうしているうちに、角まで追い詰められてしまう。

 壁と壁に挟まれて、逃げ場はない。

 どうする……!


「ゼンくん……! 危ない……!」


 すると、どこからともなくシロさんが登場して……。


「えい……!」


 ――ドカーン!


 ダンを一瞬で吹っ飛ばしてしまった。


「し、シロさん……!?」


「ゼンくん、大丈夫だったかい……?」


 まるで白馬に乗った騎士のような登場だ。

 僕はお姫様ってわけじゃないけど……。

 でも、気分としてはそんな感じだ。


「シロさん……また助けてもらっちゃいましたね……」


「いやいや、お安い御用だよ」


「それにしても……どうしてここへ……?」


 こんな夜に、こんな場所で……シロさんは何をしていたんだろう?


「え、……えーっと……その、べべべべ別に、ゼンくんが心配で見張ってたわけではないんだぞ?」


「え、はい……そりゃあそうでしょうね」


 だって、シロさんはとっても忙しい人のはずだから。

 まさか僕なんかを気にしてはいないだろう。


「まあ、たまたまだよ、たまたま」


「そうですか……たまたま」


 まあシロさんがそう言うのなら、納得するしかない。

 きっとシロさんは、困ってる人と巡り合う運命なんだろうな。

 以前僕が奈落に落ちたときも、あれだって偶然の出会いだ。

 だからまあ、シロさんにたまたま出会うことは不思議じゃない。


「シロさん、本当にありがとうございました! 僕も、まだまだです……」


「いやいやそんなことないよ! 殺す気で本気でやっていれば、ゼンくんの圧勝だっただろ?」


「え、いやまあ……そうですけど……」


 すごいな、シロさんはなんでもお見通しだ。

 僕はダンを殺さないように、剣の先を使うことをしなかった。

 そのため、どうしても防戦一方となってしまったわけだ。

 いくら憎い相手でも、僕にはとても人を殺すなんてできやしない……。


「まあ、こいつは私が後で衛兵にでも引き渡しておくから、ゼンくんはもう帰ってゆっくり休んでくれ……。その、昇格試験の疲れもあるだろ……?」


「はい、ありがとうございます」


 そこで、僕はある違和感を覚えた。


「あれ……? なんでシロさんが昇格試験のことを知ってるんですか……?」

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