第8話 剣をとる


 ある日、僕はシロさん――白銀の死神と約束をしていた。

 そんなすごい人と待ち合わせをしているだなんて、信じられないけれど……。

 しばらく待っているとシロさんは現れた。


「やあゼンくん! お待たせ!」

「いえ……ぜんぜん待ってませんから」


 でも、シロさんは本当に僕なんかとパーティーを組んでくれるんだろうか……?

 僕はただのヒーラーで、荷物持ちくらいしかできないのに……。


「ゼンくん、君は……なんの職業なんだい?」

「え、僕はヒーラーですけど……」


 きっと僕のヒール量なんかじゃ、シロさんをサポートする事すらできないだろうけど……。

 僕は自信なさげに答える。


「そうか……でも、私が思うに……。君は剣士に向いていると思うんだよね」

「え……!? ぼ、僕が剣士にですか……!?」


 前にもシロさんは僕を褒めてくれたけど……。

 まさか世界一の剣士に、剣をすすめられるとは思っても見なかった。


「で、でも……僕はその、弱虫ですし。向いてませんよ……戦うのなんて……」

「そんなことないよ! 私が教えてあげるから、ちょっと剣を持ってみない?」

「そ、そうですか……? シロさんがそう言ってくるなら……」


 シロさんがせっかく言ってくれているんだ、やるだけやってみよう。

 それに、こんな機会はめったにない。

 白銀の死神から剣を教わることができた人間なんて、僕だけなんじゃないかな。


「えい……!」

「よし! いいセンスだ!」


 僕は試しに、シロさんからもらった剣を振る。

 たしかに、なんだかしっくりくるかもしれない。

 ヒーラーとして、素早い身のこなしには自信があるから、剣さばきもそれなりだ。


「じゃあ、さっそくダンジョンへいってみようか!」

「えぇ!? もう実戦ですか!?」

「うん! 鍛えるにはやっぱり実際にやってみるのが一番だよ!」





 ということで、僕とシロさんはまたダンジョンへやってきた。

深淵の大穴ブラッドアビス】――人類が今、絶賛攻略中の最前線のダンジョンだ。


「うぅ……僕がこんなところで、戦えるんですか……?」

「安心して、私がゼンくんにバフをかけるから」


 さすがはシロさんだ、剣士でありながら、バフをかけることもできるだなんて……。

 ここは第6層……普通の冒険者はまだ、到達すらしていない場所だ。

 そんなところで、僕が戦えるわけ――。


「シロさん、危ない……!」

「…………!?」


 シロさんに後ろから飛び掛かる影があった。

 僕はそれを、咄嗟に剣で切り伏せる。


 ――ズバ!


「キュィーン!」


 それは、洞窟に生息する【マジックバット】というコウモリモンスターだった。

 なんと僕の攻撃で、一体やっつけることができたのだ。


「あ、ありがとうゼンくん。私を守ってくれたんだね」

「い、いえ……シロさんなら僕がいなくても大丈夫でしたよ……」

「いや、そんなことないよ。ゼンくんのおかげで傷が一つ減った」

「よかったです……」


 ふぅ……。

 なんとかシロさんの足手まといにならずに済みそうだな。

 シロさんのバフがあるおかげで、僕は雑魚敵なら倒すことが出来た。


「ゼンくん、すごいね……! やっぱり剣の才能があるよ!」

「えぇ……!? ホントですか!?」


 シロさんは人を乗せるのが上手いなぁ……。

 まあ僕は、アイテムボックスでシロさんに貢献できればそれでいいや。

 あとは剣で、シロさんが倒すまでもないような雑魚を倒す。

 それだけでも、シロさんの役に立っている気になれた。


「う……!」

「シロさん……!?」


 突然、シロさんがモンスターの攻撃を受けて軽い傷を負った。

 僕は急いで駆け寄る。


「大丈夫ですか……?」

「これくらい、いつものことだよ」

「待ってください、今治療します」


 僕はいつもみんなにやっていたみたいに、ヒールを行う。

 僕のヒールは至近距離限定で、一人ずつしか行えない、劣化版のヒールだ。


 ――ポウ。


 僕の手から出たヒールで、シロさんの傷が癒える。


「ありがとう、ゼンくん」

「いえ。このくらいしかできないですが……」


 僕のヒールを受けたシロさんは、しばらく驚いた顔で固まっていた。


「あれ? シロさん?」

「ね、ねえゼンくん……? これって、ただのヒールなの?」

「え、そのはずですけど……」


 というか、普通のヒールなら遠距離でも使用可能だから、僕のは完全な劣化版のヒールだ。

 それなのに、シロさんはとても不思議そうな顔をしている。


「ゼンくんのヒール、バフがかかってるんだけど……?」

「えぇ……!? そ、そうなんですか!?」


 今まで気にしたこともなかったし……それに、そんな効果があるなんて自分でも知らなかった。

 でも、シロさんほどの冒険者からすればわかるみたいだ。


「なんだか、ゼンくんのヒールを受けて、強くなった気がする……!」

「そ、そうですか! よかったです!」


 いやぁ、シロさんと一緒に冒険するだけで、いろんなことが学べるなぁ……。

 いかに今まで僕たちが考えずに冒険をしてきたかということだ。

 シロさんは僕のヒールの真価を見抜いたし、それに僕の剣の才能を引き出してくれた。

 僕はますますシロさんのことを好きになってしまった!


「すごいよ! ゼンくんのバフは! 私のバフ以上だ! まさかバフの才能もあるなんて!」

「いえいえ、シロさんがすごいだけですって!」


 その後のシロさんは、まさに無双状態だった。

 モンスターをどんどん蹴散らして、あっというまに目的の箇所の調査を終えた。


「じゃあ、今日はもう疲れただろうから、帰ろうか」

「そうですね。ありがとうございました!」


 また、次にシロさんに会えるのが楽しみだ!

 明日、ギルドにいったらまたラフラさんに話を聞いてもらおう。

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