Extra - 一年の計は元旦にあり⁉︎

 いつ眠ったかも記憶になかったけれど、気がつけば布団の中にいた。普段は安物のわりと軋むシングルベッドで寝ていたはずなのに、自分がどうしてこんなふかふかの布団で寝ているのかわからなくて、とっさに起き上がって手近なカーテンを開け、そこがもう見慣れた庭だと気づいて、肩の力が抜けた。


 まだ夜が明けたばかりの、見慣れたけれど、まだ少し慣れないこの場所。そして、夏に出会ったばかりのあの人と、新しい年を迎えたのだとようやく思い出す。


 暖房のついていない和室はひどく寒くて、もう一度布団に潜り込むかと考えたけれど、襖の向こうに人の気配を感じてそっと細くそれを開けると、机に向かっている真剣な横顔が見えた。かりかりと鉛筆を滑らせる音だけが静かな部屋に響いている。


 しばらくそのまま見惚れるようにぼんやりしていると、不意に立ち上がる気配がした。それからまっすぐにこちらに近づいてきて、襖が大きく開かれた。

「何で消ゴム投擲とうてきじゃなくて?」

「年明け第一声がそれとかアホか、お前は」

 笑う気配と同時に顔が近づく。ゼロ距離のそれは何だかいつもより執拗しつようで、ああこれはアレか、初ナニかみたいなことを考えてしまって頭を抱えた。


 そんな僕の内心をあっさりと見透かして、千秋さんが優しく、でも不穏な感じで笑う。


「紅白見てる途中で寝るとか子供かよ?」

 人の気も知らないで、と口の端を上げて笑うその顔に、道理で年越しの記憶がないわけだと合点する。

 それから千秋さんの顔に何だか違和感を覚えて首を傾げていると、呆れたように、それでも急に居住まいを正して僕をじっと見つめる。


「明けましておめでとう」

 背筋を伸ばした千秋さんはわりとやっぱり端正イケメンで、僕もつられて背筋を伸ばす。

「あ、明けまして、おめでとうございま――」

 でも、最後まで言い切らないうちに腕を引かれた。


「さて、一年の計は元旦にあり、ってな?」

「な、何の計画!?」

「そりゃもう自明ってやつじゃね?」


 やたらと甘い声で言うその顔はよく見ると無精髭じゃなかった。きっと朝も早よからいろいろ支度してたんだろうな、とか気づいてしまって、結局逆らえない僕の新年はそんな風にして始まってしまったのだった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 書き初め!(新年から何を)(最後って言ったの誰)


 本年も何卒よろしくお願いいたします!

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