第15話 だったとしても

「まさか国王が第一容疑者とはな……」


この10日で、俺には色々な情報が入って来ていた。

出所は、主にゼグス侯爵家からの物だ。


当然の事だが、ゼグス侯爵家は母を陥れた相手の調査を行っていた。

それを暴く事が出来れば、窮状の打破に繋がるのだから当たり前の話である。


だがもっとも怪しいと思われた伯爵家には、後ろ盾が出来た様な動きはなく。

証拠も一切切掴めていない状態だった。


何年もかけて全く何も出て来ない。

こうなると別の線を考慮せざる得なくなる。


――別の勢力による犯行。


そうなった時、浮かび上がって来たのが国王だった。


「国王なら、毒殺も母を陥れるのも可能だ」


――自分の愛する第四王子に跡を継がせるため、目障りな第一と第三王子を始末する。


証拠はなく、あくまでも状況からの推測による見解でしかない。

だが先ほどの態度の差を見る限り、あながち的外れではない気がする。


「第二王子だけ始末されてないのは、第四王子以外を残して皆殺しにすると犯人がバレバレになるから……か」


そう考えると、第二王子が殺されなかったのもしっくりくる。

国王の権限をフルに使えば、伯爵家程度なら軽く抑えられるだろうしな。


「国王相手じゃ、セグス侯爵家は何もできないわな」


今の押さえつけられている状態で、下手に国王相手に探りなどのちょっかいを出そうものなら、最悪、侯爵家が取り潰しに追いやられてしまう可能性があった。

手を出すには、余りにもリスクが高すぎる相手だ。


「だからセグス家は、俺に期待している訳だ」


第三王子である俺が、正々堂々王位継承レースを勝ち抜く。

現状で考えると、それはかなり無茶な期待ではあるが。


……ま、それに応える自信自体はあるけど。


「まあけど、まだ確定じゃないよな」


サーチは常に行っている。

少なくとも今は、国王は一般の色で表示されていた。


赤くないなら、毒殺の首謀者ではないのでは?


あくまでも、今は、だ。

以前強い殺意を持っていたとしても、今はそこまで考えていなければ、殺しあう相手とチートには判定されないからな。


「兎に角……今はどんな状況にでも対応できる様、力を付けないと」


もし国王が犯人だった場合、今の俺で物理的に始末するのは難しい。


俺の強さは相当な物だと自負している。

普通の奴らなら、束になってかかって来ても相手にならないだろう。


だがそれでも、国王の相手を出来るかと言われれば……


何せ、ガンドールはいにしえの竜を一体狩っている訳だからな。


古の竜。

エンシェントドラゴンは、この世界に存在する魔物の中で最強と呼ばれている存在だ。

その力は通常のドラゴン種とは一線を画し、たった一匹で国を亡ぼす程だと言われている。


そしてガンドールは、魔物の狂乱モンスターフレンジーの際にその一体を狩っていた。


「俺もドラゴンは何体か狩った事があるけど……」


そのドラゴンでさえ、楽勝には程遠い物だった。

そんな様では、たとえ体が二つある状態で奇襲をかけても、ガンドールに勝つのは厳しいだろう。


「ま……こっちの体のレベルも上げれば、その内どうにでもなるだろうけど」


ステータスの上昇こそ連動しているが、レベル自体は別々だ。

レベル上げは上がれば上がる程きつくなるので、少ない経験値で上げられる低レベル分のステータス上昇がもう一回受けられるのは大きい。


しかも俺は、成長倍加で人の倍の恩恵を受ける事が出来る。

そのため、最終的なレベルアップによる成長は人の4倍。


いくらガンドールが英雄王と呼ばれるほど強くとも、転移や天才のチートも合わせれば、いずれは追い越す事も可能だろう。


「取り敢えず……魔法習得の続きをするか」


俺は脇机に置いてある魔導書を手に取り、ベッドの上で開いた。


病み上がりと言う事で、俺は体を動かす事をまだ許されていない。

今のこの体で出来る事は、ベッドに寝そべったまま魔法を習得する事ぐらいである。


とは言え、王家で学ぶ事が出来る魔法は一般に出回っていないものが多い。

俺もこの5年でかなりの数の魔法を習得したが、王族の特権として学べる物は取得しておいて損のない物ばかりだ。


「天才もあるし、サクサクっと習得するとしよう」


俺は魔導書に目を通し、魔法の習得に勤しむのだった。


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