7.クセのあり過ぎる面々

「君にお願いしたい事というのは、湖に住むレイクモンスターの討伐だ」


 キリアム町長は深刻な顔で前のめりになり、ブルースを見つめる。

 レイクモンスター。

 その名の通り湖に住む魔物だ。


「あの、僕のスキルはご存知ですよね? 重装歩兵ファランクスですよ? 湖に居るモンスターと戦えるはずがありませんよね?」


「それは重々承知している。だから君には討伐隊に参加してもらい、隊員を湖まで安全に運んで欲しいのだ」


 魔動力機関装甲輸送車ファランクスの事は街では知られており、剣や斧、巨大なハンマーで叩いてもビクともしない事で有名だ。

 なので湖までの安全を確保したい、という事だろうか。


「輸送なら……そうですね、僕が適任かもしれません。しかし僕を含めて十人しか乗れませんよ?」


「その点は問題ない。運んで欲しい討伐隊は七人だからな」


 七人ならば車内にも余裕があり、他の荷物も積みこむことが可能だ。

 運ぶだけといっても、討伐隊が湖に到着するまでの世話全般も含まれているだろう。


「わかりました、その御依頼をお受けします」

「そうか、助かる。なにぶん湖に近づくのを怖がる連中ばかりでね、馬車の手配が出来なかったんだ」

「ハハハ。ところでレイクモンスターはどんな魔物なんですか?」


全貌ぜんぼうはわかっていないが、大きなヘビの様な奴らしい。何でも丸呑みしてしまう恐ろしい奴さ」


 湖に住む魔物の退治となると、ブルースとの相性は最悪中の最悪だ。

 重装歩兵ファランクスは足場がユルイだけで身動きが取れなくなり、まして水に入ったら二度と浮き上がってこれない。


 直接戦う訳ではないにせよ、それを理解して依頼を受けたのだろうか。


「これから時間はあるかね? 討伐隊のメンバーを紹介したいのだが」


「今日はこの後は用事が無いので問題ありません」


「では来てくれ」


 屋敷を出て案内されたのはかなり古ぼけた建物だった。

 きしむ木の扉を開けて入ると、中には小さなメガネをかけた老婆がカウンターの向こうにいた。


「なんだ、キルぼうかい」


「バアさんその呼び方はやめてくれ。キリアムって名前があるんだから」


 随分と親しいのか、老婆と町長は気軽に会話をしている。

 キリアム町長が老婆の向かいに座ると、ブルースの紹介始める。


「こちらがブルース、バアさんとこの若い衆を湖まで連れて行ってくれる運び屋だ」


「初めまして、ブルースと申します」


 軽く頭を下げると、老婆はメガネを下にずらして睨むようにブルースを見る。

 どうやら老眼のようだ。


「そうかい、お前さんのお陰でヘビ野郎と戦わなくちゃいけないんだねぇ、あー困った困った」


「おいバアさん、アイツを倒さないとピクニックに行けなくなっちまうんだぞ?」


「あたしゃピクニックなんて行かないよ」


「孫と行ったら楽しいんじゃないか?」


 老婆は顔を逸らして少し考え、町長に向きなおる。


「全額前払い。その他にも必要な物は請求させてもらうよ」


「半額前払い、必要になった物はリストにして後から請求してくれ」


「チッ、素直に首を縦にふりゃいいのにねぇ」


「後から何を請求されるかわかったもんじゃないからな」


 ……一応は話がまとまったようだ。

 それにしてもこの老婆、町長に対して随分と強気に出ている。


「おいお前達! 話がまとまったから出ておいで!!」

 

 奥に向かって大声を出すと、ドカドカと歩く音がして大きな音をたてて扉があけ開かれた。


「仕事か!! 俺の活躍の場が出来たんだな!!」


「お前のじゃない、俺の活躍の場だ」


「どっちでもいいけど、私をしっかりと守んなさいよ?」


「ふぁぁ~~~……あふぅ。ん? 誰そいつ」


「ペットと一緒でもいいわよね? ね?」


「ヒヒヒ、ヒヒヒッヒヒヒ、血、ち、チ、血がドバー!!!!」


「やぁ~だぁ~、行きたくないぃ~」


 随分と個性的な男女七名が現れた。

 男四名、女三名、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうから子供の様な者まで様々だが、本当にこの七名が討伐に向かうのだろうか。


「こいつ等に任せときゃ問題は無いだろうさ。さ、払うもん払いな」


「バアさん、流石に今は持ってきてない」


「じゃあ取ってきな」


「出発日が決まったら言ってくれ、用意しておく」


 老婆と町長がけん制し合う中、七人はブルースを囲んでいた。


「ねぇねぇ! 坊やが私達を運んでくれんの? きゃ~わいい! ウフ」


「キミが我らを運んでくれるのか! よろしく頼むぞ少年!」


「ガキだ、ガキだガキだガキだ、血がキレイなガキだ!」


 ブルースはかなり圧倒されているが、必死になってこらえ自己紹介をする。


「ぶ、ブルースと言います。道中の安全は保障しますので、皆さんはレイクモンスターの討伐に全力を注いでください」


 この濃いメンバーを見てなお、逃げる事なく仕事の保証までしてのけた。

 確かに剣聖ソードマスターやら剣豪ソードマンやらを相手にしていたから、驚きはしても恐怖は感じていないのだろう。


「あなた面白いねぇ~。じゃあぁ、作戦会議でもするぅ~?」


 一番ヤル気の無さそうな若い女性がそういうと、他の六名は素直に従った。

 とてつもなく濃い七人とブルースによるレイクモンスター討伐が、今始まろうとしている。

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