第5話 マリアとデート

 マリアは僕のことをシン様と呼んでいる。何か照れ臭い。僕はこの街に来たばかりで、街のことがほとんどわからない。何よりもこの世界の人々の生活については皆無だ。



「シン様。今日は街をご案内したいんですが、ご予定はありますか?」


「いいえ。特にないですよ。」



 街に行くにあたって、エドガー伯爵からも夫人からも馬車で行くように勧められたが、街並みをよく見たいと僕が言ったので、歩いていくことになった。当然護衛は無だ。


 2人は手を繋いで兄妹のように街を歩いた。やはり、目立つようですれ違う女性達が僕を見る。



「シン様はカッコいいからみんなから注目されますね。」


 

マリアがニコニコ笑いながら嬉しそうに話す。



「僕は目立ちたくないんだよね。」


「でも、シン様ほど素敵だったら仕方ないと思いますよ。」



 僕には自覚がない。むしろ、地球にいた時にクラスのみんなから大きな体格を笑われた経緯がある。人から見られることに未だに恐怖感すら感じる。



「シン様。あそこの屋台のお肉が美味しんですよ。」



 マリアに手を引かれて屋台に行った。



「おっ、可愛いカップルだね! 兄妹かい?」


「いいえ、私達は恋人同士よ。」



 マリアが体をくっつけてきた。何か人前で気恥ずかしい。



「おじさん。2本頂戴。」


「毎度!」



マリアは肉串を受け取ると僕に1本差し出した。お肉はホーンラビットの肉のようだ。肉の味は淡泊だが、たれの味が美味しかった。



「どう? 美味しいでしょ?」


「そうだね。でも、お屋敷の方が美味しかったよ。」


「それは当たり前でしょ。この国でも指折りの料理人のマッシ―さんが作ってくれているんだから。」


「へぇ~。そうだったんだ。」



 街の中心には噴水があり、蒸かし芋の屋台があった。複数のアベックが蒸かし芋を食べながらベンチに座っている。



「ねぇ。あのベンチに座って、蒸かし芋食べましょうよ。」



 僕達が蒸かし芋を買おうと列に並んでいると、横から割り込んで来るアベックがいた。すると、マリアが声を荒げた。



「ねぇ! ちょっと! あなた達、順番守りなさいよ!」


「うるせぇな! なんだ。ガキじゃねぇか。」



 アベックは俺達の方を振り向いた。威勢のいい男とは別に女性の方は僕の顔を見詰めている。



「この子、可愛いわ。僕、お名前は?」


「お姉さん。順番守らないとだめだよ。」


「そうね。お姉さんが間違えていたわね。」



 女性の方は素直に後ろに行こうとする。だが、男性の方が切れた。



「お前! こんなガキのことが気に入ったのか?」


「いいから。後ろに並びましょうよ。」


「うるせ――! もう、お前とはお終いだ! おい、そこのガキ! こっちに来い!」



 男が僕の肩を掴んで強く引っ張る。僕は、咄嗟に男の手首を強く握ってしまった。



「ボキッ」



 すると握った手首から嫌な音が聞こえた。



「痛ぇよ――――!!」



 男は手首をつかんで叫んでいる。



「まだ、何か用事ありますか?」



 僕がぶっきらぼうな言い方で、声をかけると男は速足で立ち去っていった。



「さすが、シン様ね。あんなどうしようもない男が相手になるわけがないのよ。」



 周りで並んでいた人達が僕に注目している。




“目立ちたくなかったのに~!”




僕は目立たないように下を向いたが、それでも、女性達の囲まれてしまった。



「ねぇ、ねぇ。君、名前なんて言うの? どこに住んでいるの?」



 女性達が群がってくる。耐えきれなくなった僕はマリアの手を掴んでその場から走り去った。



「どうしたの? 急に!」


「だって・・・・・・」


「よっぽど目立つのが嫌なのね。いいわ。じゃぁ、服屋に行きましょ。フード付きの服を買えば目立たないでしょ。」


「うん。」



 マリアに連れられて服屋に行った。少し大きいがフード付きの服があったので、それを購入し、代金は伯爵家の付けにしてもらった。



「これなら目立たないでしょ。シン様。」


「ありがとう。」



 頭からフードを被り、顔が分からないようにして再びマリアと街を歩いている。すると、今度は武器屋が目に飛び込んできた。



「シン様。武器屋に興味があるようですね。入ってみますか?」


「うん。」



武器屋に入るといろんな武器がおかれていた。ナイフや剣や鎧があったので、一通り見て回ったが、残念なことにこれといって欲しいものが無かった。すると、中から髭を生やしたドワーフが出てきた。



「おい、そこの坊主。この中には気に入ったものがないか? どうやら坊主には見る目があるようだな。」


「別にそういうわけじゃないんですけど。」


「ちょっと中に来な。」



 僕とマリアは店主に言われて店の中に入って行った。すると店の奥は作業場になっていて、壁には昔テレビで見たことのある“刀”が飾ってあった。一目見てその美しさが気に入ってしまった僕は、刀の前で立ち止まってじっくりと眺めた。



「やっぱり坊主は見る目があるようだ。これが気に入ったのか?」


「はい。」



 ドワーフの店主は壁から刀を取って僕に渡してきた。



「持ってみな!」


「いいんですか?」



 僕がその刀を持つと、不思議なことに刀が共鳴するかのように輝き出した。



「オオ――――――」



 ドワーフの店主もマリアも大きく口を開けて驚いている。



「坊主。お前は何者だ?」


「・・・・・」


「この刀はなぁ、わしの命の恩人がわしに預けて行ったものだ。この刀を持った時に刀が光るような客が現れたら、その者に渡して欲しいって言われているんだ。大分昔の話だがなぁ。」


「何年前の話ですか?」


「そうさなぁ~。100年ぐらい前かな。」




 “まさかと思うけど師匠じゃないよな?”




「その人は男性ですか? 女性ですか?」


「すごい美人だったぞ!」




 “やっぱり師匠の可能性があるよな。”




「わしはドワーフ族のドワンだ。坊主の名前はなんだ?」


「僕はシンです。」


「私はマリアよ。」


「マリアって領主様のところのお嬢様かい?」


「そうよ。」



 その後、ドワンさんが刀についていろいろと教えてくれた。ドワンさんが山に鉱石を採掘しに行ったときに、ワイバーンの群れに襲われた。絶体絶命のピンチに陥り、もうだめかと諦めかけたときに一人の女性が現れて、ワイバーンを倒して助けてくれたらしい。その女性が言うには、この刀には特別な力が宿っていて、その女性には使いこなせない。この刀は意思を持っているようで、本当の主を見つけると光るらしい。



「つまり、シン様がその刀の主ってこと?」


「信じられないが、そういうことになるな。」


「でも、僕はお金持ってないです。」


「シン。この刀は売りもんじゃない。お前に渡すために、わしが預かっていただけだ。」


 

 ドワンさんが刀の鞘も一緒に渡してくれた。



「ありがとうございます。また来ます。」

 


 僕は刀を背負って帰った。



「シン様、その刀は重くないですか?」


「それほどでもないよ。」



 マリアが僕の手を握ってきた。すでに、2人にとっては自然なことになっている。


 屋敷に戻るとエドガー伯爵と伯爵婦人のマーサさんがいた。



「フードなんかかぶってどうしたの? シン君。」



 マリアが街であったことを伯爵と夫人にすべて話した。



「シン君は可愛いから人気が出ちゃうのよね。マリア、しっかりシン君を捕まえておかないとね。」


「お母様ったら!」



 マリアが真っ赤になって下を向いてしまった。

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