こんなんでもヒーローなんだよ!!

ム月 北斗

その人物、悪党につき。

 多くの仕事終わりのサラリーマンやOL、暇を持て余した人々が飲み屋街を闊歩する。


 そんな通りから少し外れた路地裏で、気を失い倒れている中年の男性と、二人の若者がいた。


「ひー、ふー、みー・・・っと、まぁまぁな当たりかな?」金髪の若者が財布の中身を確認していた。


「な・・・なぁ、このおっさん死んでねえよな?結構ボコにしちまったけどよぉ・・・。」


「あ?よく見ろよ、気ィ失ってるだけさ。」


『オヤジ狩り』、言葉を聞けば大抵の人がその意味を知っている。この二人はを行ったようだ。


「で・・・でもよぉ・・・。」気が弱いのかもう一人の背の低い男がオドオドとつぶやくように言う。


「なんだよ!言いてえことあんならハッキリ言えや!」イラついたのか声を荒げて金髪が返した。


「こんなことすんのはさ、ほら・・・じゃん?だからさ・・・、それに・・・さぁ、聞いたことある?」


「噂?ンだよ、それ・・・。」


「あれだよ、ネットの都市伝説の・・・『大男』の噂だよ・・・、悪いことしてる奴らの前にイキなり現れて酷い目に合わせるってやつ・・・。」


「は!ンだよそれ、『ヒーロー』かっての!」金髪はそういうと、ハッ!っと呆れるように笑って見せた。


 男たちが中年男性から奪った財布をもって路地裏を抜け出ようとしたその時だった。







「よぉボウズども!高そうな財布持ってんじゃねえか、えぇ?オレになんかご馳走してくれや!」







 突然響いた大声に二人の肩がビクッ!と上がる。


「だ、誰だ!?」金髪がキョロキョロと辺りを見回す、しかし自分たち以外誰も見当たらない。







「おう、どこ見てんだよ?こっちだ、だ。」







 そう言われて二人は上を見上げた、ちょうどそのタイミングだった、声の主は上からのだ。


 着地時の凄まじい衝撃が辺り一面に響く、雑居ビルの壁にヒビが入り、電柱の電線がたゆみ、音を鳴らして揺れていた。


 舞い上がった砂埃で顔を覆う二人、埃に映るシルエットはやがて、段々とハッキリ見えてきた。


 自分たちよりもずっと高い身長、身体は路地裏を擦れ違えないほどたくましい。暗闇に紅い瞳をギラギラと輝かせていた。


「あ・・・あぁ!?こ、こいつ・・・こいつだよ!!」背の低い男が震えながら続けた。


「都市伝説の・・・『大男』だよ!!」


 のっしのっしと大男は二人に歩み寄る。


「な・・・ンだテメェ!やんのかこの野郎!!」金髪が震えながらも拳を構えた。


「ん~?なんだよ、おごってくれねえのかよぉ?つまんねえガキどもだなぁ・・・。」肩を落としてそう言うと男は続けた。


「ま、『オヤジ狩り』なんてしてるようなガキだし、当然か。」


「っ・・・!」


 どうやら大男には、これまでの行動は筒抜けだったらしい。


「や、やばいよぉ・・・逃げようよぉ・・・。」すっかり怯えてしまったのか、背の低い男は四歩も五歩も後ろに退がっている。


 しかし、金髪は違った。構えを解かずに食って掛かる。


「ば、馬鹿にすんじゃねえぞゴルァ!!ぶち殺すぞ!!」


 精一杯の抵抗心、たいして大男はというと・・・。


「ぶわーはっはっは!!!ヒ、ヒィヒィ・・・おいおい、なんだお前、じゃねえか!」よっぽど面白かったのか、大男は腹を抱えていた。


「な・・・なにがおかしいんだよ!!」恥ずかしいのか金髪の頬は赤くなっている。


 大男は息を整えると二人に向かい言った。


「まぁ、なんだ。お前ら、それが『悪いこと』ってのは分かるよな?」


「だ、だったらなんだよ・・・。」


 大男は岩のように大きな拳を握り、バキボキと音を鳴らしながら二人に歩み寄る。


「っし!からな!!歯ぁ食いしばれやぁ!!!」





 それから程なくして、数台のパトカーが路地裏前に停車していた。


「はぁ・・・。」寝不足なのか、眼の下にクマのある男性刑事がため息をついた。


 彼の前には異質な光景が広がっていた。


 ゴミでいっぱいでハエのたかるゴミ箱に、頭からぶっこまれ足だけが出ている男が一人。


 その奥、パンツ一枚、着ていた服だろうか頭にそれを被せられ、首には「free hugs」と書かれたボードを掛けられた背の低い男。


 刑事はもう一度深く「はぁ・・・。」とため息をついた。


か・・・、やれやれ。可哀想にな、まぁ、悪いことしたバチってやつだ、目が覚めたら反省しろよ。」


 目が覚めた中年男性の証言により、この二人は後に『窃盗罪』と『暴行罪』で訴えられた。


 取り調べ中の二人は終始、当時を思い出させるたびにガタガタと震えていた。

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