第41話 闇素麺

目に入る建物も道路も看板も何もかもがカラフルで目に優しくないことこの上ない。

随分昔に色を自由に使うことが法で禁止された。

いや、正確にいうと色を付けることを強制されるのだ。

それもなるたけ派手な色を。

その時代にはとにかく人々が個性を発揮することの重要性が叫ばれ、没個性的であると政府に見做されたことはどんどん処罰されるようになっていった。

取り敢えず建物の色をグレーやブラウンにすることも認められない。

デザインをわざわざ申請して余程独自性が認められなければ白や黒に塗ることも出来ない。

全く、パンダという種の個性はどうなっているんだ。

結果、世間には様々な色彩鮮やかなものが増え、モノトーンという概念は消えたかと思われる程だ。

私の様に不満を持つ者も多いとは思う。

ただそれでお上に逆らおうという程の気概を持ったものはいないのだ。


結局脳内で文句を垂れ流してもなんの意味もないなと歩いていると素麺ありますというパステルカラーの看板が目に入った。

素麺か、なんとなくさっぱりしたものを食べたい気分だったので入ってみることにする。

メニューにはカラフルな素麺の写真が並ぶ。

ひとつ溜息をついて注文しようと思った時、店員と目があった。

そして彼女は近付いてくるなり言った。

「お客様、もしよろしければ白い素麺を召し上がりませんか?」

白い素麺か、見たことがないな。それは是非とも頂きたい。

「ではこちらに」

案内されるままに奥に進むと

「少々手狭で申し訳ございません」

どうやら隠し部屋になっているようだ。

「こちらでは白い素麺を提供しております」

差し出されたそれに私は心を打たれた。

生まれて初めて見たがそれこそが素麺の真の姿なのではないかと思えるほどしっくりときている。

「これは素晴らしいです。」

「是非また白い素麺を食べにいらしてください。政府に見つからない限りここで出し続けていく予定です」

やはり白を白のままにする自由を取り戻さなければ。

その時私はそう誓ったのであった。

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