第16話 古臭い憎まれ口を言ってくる女

離さないで

絶対にその手を離さないで


目覚めると自分の部屋の玄関だった。

昨晩の記憶が途中からすっぽり抜け落ちている。

よくここまで辿り着いたものだ。

スマホを見ると、電源が切れている。

電池切れだな。

しかしなんだろう。

靄に包まれた水辺で誰かに手を離さないでと懇願された、ようなイメージだけが頭に残っている。

それこそ頭に靄がかかっているようだ。

友人の経営するバーで飲んでいたところまでは記憶がある。

その後ここに辿り着くまでにそのような幻想的な体験をしたとはとても思えないのだが。

やっぱり今見た夢かな。

ようやくスマホの電源が入る。

友達から何度も電話がかかってきていた。

メッセージも30件以上ある。

本当に心配性なんだから。

大丈夫だよ、と返信した途端電話がかかってきた。

「今どこにいるの?」

自分の部屋だけど。

「あんた、めちゃくちゃ酔っ払って女と店出てったんだよ。」

女と?

「知り合いだって言ってたけど。」

知り合いねぇ…

朧気ながら記憶が蘇ってくるような感覚がある。

そうかあの公園。

帰り道に一つ池のある公園がある。

あそこに誰かと一緒に行ったような気がする。

頭が痛い。

もう少しベッドで寝たら散歩しに行ってみるか。

何か思い出すかもしれないし。


離さないで

絶対に手を離さないで


またこの夢か。

池に落ちそうになった私の手を掴んでくれた。

一緒にいた彼女が。

あなたは誰なの。


全く…私がいないと本当にダメなんだから。

もしかしてあなたは

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る