第7話 たどたどしい挨拶

小学三年生の頃だったと思う。

転校生がクラスにやってきた。


彼はどもったりつまったりしながらも、名前とクラスのみんなと仲良くしたいということを伝えた。

お世辞にも素晴らしい挨拶だとはいえなかったがその真摯な姿勢にクラスの皆は好感を持ったように思う。


彼は運動も勉強も平均レベルでこれと言った特技もなかったが自然にクラスに馴染んでいた。

しかし四年生に上がる頃、彼はまた転校していった。

どうやら親が転勤族で何度も転校を繰り返しているという話だった。



そして五年生になる時、今度は私が転校することになった。

新しい学校で私は当たり障りのない挨拶をした。

何となく新しい生活にも馴染み始めた頃、なんと彼がまたしても私のクラスに転校してきた。


彼はクラスの皆の前で自己紹介の挨拶をした。

それはいつか見たのと全く同じ様な辿々しいながらも不思議と誰もが好感を持つ挨拶であった。


彼は私に気付くとほんの少しだけ気まずそうに笑った。

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