青き花があるところ

@kyogetsu8

第1話 伊藤 梓

「ほんとう、最近はどうなってるのかしら」

母がため息まじりに、心底あきれた様子で妹に同調した。刺さる、さらなる同意を求める母の視線に私は、

「ねえ、そうだねえ」

と、無難な返事を返し視線をなんとなくテレビの画面へ移した。おいしそう、と甘い物が大好きな妹が呟いたテレビでは、先ほどまでのニュースはおわり、カメラ目線のアナウンサーがデパ地下のスイーツを紹介していた。見ていて胸やけしそうな生クリームを、口の端につけながら丁度良い甘さだとほおばっている。


 それは、私たちが子供のころから通っていた遊園地が従来の入園時アナウンス方法を変えるということだった。大人の人だけでなく、ここは子供の私も歓迎されていると確信できるウェルカムフレーズだった。子供ながらに毎回そのフレーズに心をときめかせ、それは先月行ったときも変わらないときめきをくれるものだった。

 しかし、そのフレーズは不平等の名のもと、言い換えれば男女平等、いや、性別を排除するためになくなってしまった。それは、悪か善で判断するべきことでも、損や利益で判断することでも、ましてや私の好き嫌いで決めることではないから、そっと目を閉じる。


「でもさ、私やっぱり理解できないや」

妹の声で、ハッと正気に返った。テレビでは同性愛を扱ったドラマの特別予告編が流れている。食洗器に皿を入れ終わった母がテレビをみるために、姉妹で並んでいたソファにどいて、どいてと腰かけた。

せまい。私は開いてた足を外出時みたいにぎゅっと閉じた。

「ちょっと、ママさ、こういうのすきじゃないから変えてよ」

母が妹にまるで、嫌なものをみたという表情でそういう。妹はぶつぶついいながらも母にリモコンを渡す。チャンネルを変えてもタイミングが悪いことにどれもコマーシャル中だ。

「でもさ、男同士ならフィクションとして見れるけど女同士のってなんかきもい。リアルでさ。」

 と妹が言う。誰かを馬鹿にするような笑いをする妹に、母も私も理解できないわ一生、と返答し、またもや私に同意の目線を求めた。あたかも同意しているように、私はまた、ねえといった。母は、続けて言う。

「こんなのにならないでよね、二人とも。」

私はカラッと笑った。空にして、笑った。



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