十二月十六日  わがしや 中

 戸口でうなだれる杏を見た母は、先生が今日も休んだことが聞かなくてもわかった。昨日、すぐなおると言った手前、どう声をかけたらいいものか悩んでしまう。

 ねぇ、母ちゃんとか細い声が落ちた。

 ん?と母はやさしく続きを促す。


「空木先生の、ところに、おみまい……行ったら、だめ……かな」

「だめなことはないと思うけど、おうちが何処かわかるの?」


 はっと顔を上げた杏はしぼむように服を握る手を見下ろす。そして、消え入りそうな声で、知らないと呟いた。

 母は目の前の小さな鼻をつまみ、困ったように笑う。


「今日は行けないけど、明日は行けるじゃない。この前、来てくれた先生でしょ?」


 鼻を摘ままれたまま器用に頷く姿は、物影から様子をうかがう小動物のようだ。甘やかしてはだめだとわかっているが、こんな顔をされては蜜を与えたくなる。母は摘まむのをやめて、鼻の先と人差し指の先をくっつけた。


「もし、明日、先生が休むようなら、先生のおうちを聞いていらっしゃい。飛びきりの菓子を持たせてあげる」


 母の飛びっきりの笑顔に、杏は顔を輝かせ大きく頭を振った。


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